イロムク『他人』【歌詞の内容だけでなく、サウンド全体でこの曲の感情が構成されている】
自暴自棄というか、そんなに投げやりな言い方はないだろと言いたくなるような言葉から始まる歌。ああ、失恋はそういうやけっぱちな気持ちにさせるんだね。しかしそのやけっぱちな気持ち全開の歌詞はすべて未練に収束していく。どこかで会えたら他人のフリをしよう、そうしたらまた最初からやり直せそうで。そんなことを言い合うのであれば、別れたりなんてしなければいいのに。それでも時として人は別れを避けられないのだろう。それは誰だって経験することなのだろう。だからこのやけっぱちで投げやりで救いようのないほど未練たらたらの歌詞が響いてくるのだろう。MVに映る、これから他人になろうとする女の子が可愛くて、ただ可愛いだけじゃなくて泣いてる演技(?)が実に切なげで、Twitterのフォロワーが4.7万人の人気モデルさんらしい。そりゃあ別れることに躊躇して未練たらたらな心情に感情移入もできようというもの。普通の一般恋愛では客観的にはこんな可愛い人である確率は極めて低いだろうけど、相手の良いところはルックスだけじゃないわけで、様々な要素が絡み合って「別れたくないよう」という気持ちになるのはどんな恋愛だって同じことなのだろう。
このヘビーで未練たらたらな内容の歌が、かなり軽めなサウンドに彩られていて、こちらの心情がヘビーになること無く聴けるというのはとてもいい。サビ前のギターのハーモニクス音のリフが感情と現実の切り替えを促すようで良いアクセントになっているし、ところどころでドラムを中心とした盛り上げがあって、ただ歌詞の内容で流れを持っていくだけなのではなく、サウンド全体でこの曲の感情が構成されているようで、かなり実力を秘めたバンドなんじゃないかと思わせる。それに、多くのバンドがMVにモデルさんを起用して、その子の魅力で全体を引っ張ろうとするケースがとても多い中、このバンドはモデルさんの登場シーン半分、メンバーの演奏シーン半分くらいの割合で自分たちも前面に出てて好感持てる。好き嫌いは人それぞれなんだろうけれど、けっしてめちゃイケメンとまではいえないボーカルが画面一杯に映りながら歌っているのが、とてもいいじゃないか。
(2019.8.5) (レビュアー:大島栄二)