街人『Amaryllis』【ただそこに淡々と曲が存在するような曲に出会うことは滅多に無い】
淡々と曲が進行していく。どっしりしているなという印象が沁みてくる。派手さはまったくなくて、その派手さの無さぶりが意外にも新鮮に感じられる。滋賀出身の3人組ロックバンドの彼ら。撮影している市民野球場はいったいどこの野球場なんだろうか。貸し切りにしたんだろうか、撮影用に借りたらいくらくらいなんだろうかとか、そんなことを考えてみるものの、いつしかそんなことはどうでもいいような感じになってくる。曲が、歌声が、あまりにも淡々としていて、その淡々ぶりに心がスーッと吸い込まれていく。いろいろなロックバンドのいろいろなロックサウンドの形があって、ちょっと耳にするだけで尖りっぷりに疲れてしまうものもあれば、伝統的サウンドの形式を模倣するばかりでイヤになってしまうものもあって、スーッと吸い込まれていくような音は意外に少ない。過去の曲と同じでは意味がないからと新機軸を打ち出そうとするあまりにゴテゴテとしたサウンドになっていくものの中で、過去のものと同じとか違うとかに囚われることなく、ただそこに淡々と曲が存在するような曲に出会うことは滅多に無いことなのだ。
この街人というバンドの曲はどうしてそんな佇まいを実現できているのだろうか。それが言葉で説明できればどんなバンドだってやってるわけで、説明できないから稀なのだ。なのでもう説明しようという努力など最初から放棄してしまってて申し訳ないのだが、とにかく、聴いていて心地良い。あまりにも淡々としているので、サラリと聴いてしまったらその良さに気付かずに終わる可能性もあるので、「これイイよ」とみんなに気付いてもらえるように、触れておきたいと思うのだ。
(2019.7.26) (レビュアー:大島栄二)