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Dizzy Sunfist『STRONGER』【映像のひとつひとつにきちんとした計算が施されている、作り込まれたMV】

このMVはとってもカッコいい。サウンドは完全にハードロックバンド(ハードコアとかパンクの要素もありつつ)なのに、ビデオの構成がまるでポップバンドのよう。とてもスッキリとした作りで、ハードロックファンでなくてもスーッと入り込んでいくことができる。ハードロックというのはかなり様式美の世界で、そのハードロックらしさを守らないとハードロック業界からもハードロックファンから受け入れられなかったりする。様式美の世界ということを非難するつもりはないけれど、それではマーケットは狭くなっていくだけだよねといつも思ってる。このMVは、そういう思いに対するひとつの答えになっているような気さえして感動的だった。彼らの過去のビデオを見直してみると、やはり基本的にはハードロックバンドらしい、ある種様式美を遵守したような映像が並んでいた。1年半ほど前の「Life Is A Suspense」では、かぶりものやコスプレをしたりして多少飛び出そうという意志は感じられるものの、演奏している姿はやはりハードロックの様式そのもので、だからそのかぶりものやコスプレが却って中途半端な印象があった。中途半端という言葉が適切でないのなら、付け焼き刃的な印象と言うべきか。いや、音楽自体は良いのだ。だが様式美的な世界から抜け出そう、はみ出そうとして、その結果そんなにカッコよくないMVになってしまったというか。そう、はみ出してもカッコよければ良いのであって、そこを外してはいけないんだと思う。それはハードロックであろうがなかろうがである。その点、この「STRONGER」のMVのカッコよさは一体なんだろう。動きがすごい。ビデオの切り替えがすごい。MVに動きを取り入れる時に簡単な方法はメンバーが動くということだ。だがそれだけでは単調になるし、人間が楽器を演奏しながら動けるパターンなどたかが知れている。その中でハードロック的なものを出そうとするからかなり限定的な動きになって、それが、多くのハードロックバンドが意図的に様式美を守ろうとしていなくても、結果的に様式美的なところに収まって来たのかもしれない。だがこのMVではとにかくカメラが動くし、編集でかなり細かく切り刻まれているし、切り刻んだものを効果的に再配置している。1:00あたりのところではメンバーが次々と右から左へと流れていくが、実写でこんな動きが出来るわけないので、実際にはそれぞれ撮られた映像がつながれているわけだが、そこにスモークを焚いてあって、このスモークによって逆につなぎが上手くいってるのかなあとか、いろいろと想像する。こういうつなぎで映像を作る以上、必要となるパーツを全部不足なく撮影しなければいけないのであって、撮影後の編集よりも、撮影前の準備の方が大変だったろう。撮影時も後でつながるようにきっちりと撮らなければならない。1:39で背景がグレイから赤に切り替わるところでドラムがスティックを回して金物(速すぎてなんだかはよくわからないけど)を叩くシーンが一瞬映ってて、ここにスティック回す部分があるということをちゃんとわかってて、そこで背景を切り替えるのが効果的だと考えて、それに基づいてこの一瞬のシーンを撮影する。そのことはメンバーにも事前に伝えておく。2:00のところではボーカルのあやぺたが握りこぶしを前に突き出し、カメラのピントはそこにさっと合わせられる。これも「ここでこぶしを前に突き出してね」ということは打合せ済みのはずだし、ただ突き出しても画面的にベストの状態になるとは限らないので、何度も何度もやり直して、ピントをどう合わせればいいのかも何度も何度もやり直して、結果的にそのシーンは撮られている。

これは、ある意味AKBなどのアイドルグループのMV撮影と通じるところがあると思う。何人もいるアイドルグループのMVが魅力的なのは、ちゃんと見えないからだ。お目当ての子が映ったと思ったらすぐに別のカットに切り替わってしまう。見ているファンは満足できるほど見ることができない。ファンじゃなくても「今のなんだったんだろう」という気分になってしまう。しかしほんの一瞬のカットを適当につないでいるのではなくて、各メンバーの決めポーズとか、美しく見える角度とかをちゃんと計算して撮影してつないである。そういう細かな作り込みが、MVを数段良くしてくれるのだ。そういう意味でも、このMVは魅力を全部さらけ出すのではなく細かくぶった切りながら興味を維持し、そのぶった切ったような映像のひとつひとつにきちんとした計算が施されていて、本当によく作り込まれた作品だと恐れ入る。ただ単にハードロック様式美を逸脱しているというわけじゃない、より高みに登り詰めるための努力がうかがえて心地良い。

(2019.7.4) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl