<!-- グーグルアナリスティック用のタグ -->

moon drop『西大寺より』
【さほどメジャーではない地名をタイトルにすることの効果】

西大寺という街の名前はどのくらいメジャーなのだろうか。奈良県にある街の名前で、近鉄を利用して大阪から京都へ、京都から伊勢志摩へと移動するのなら必ず通過する駅名で、乗り換えをそこでしなければならないこともしばしばだ。だから関西に移り住んでから西大寺というのは僕の中ではかなりメジャーな地名になっているけれど、東京にいた頃には全く知らなかった。それが奈良にあると言われれば、そんな名前のお寺だろうとしか思わなかったに違いない。

東京を歌った曲とは違って、そんなに知名度のない地名を歌にした場合、それがどこまで伝わるのかは不明だ。かつて森高千里が渡良瀬橋という曲を歌ったことがある。渡良瀬橋というのは栃木県足利市にかかる橋のことで、それまで全国的にはほぼ無名。だが森高千里という有名なシンガーが歌うことで渡良瀬橋の地名は全国的に有名となる。その後松浦亜弥もカバーし、MVでは現地まで行って撮影し、その橋はますます有名になる。全く無名だった地名が有名人の作品に取り上げられることで知名度が上がる。ではmoon dropが歌う「西大寺より」はどうなんだろうか。MV公開から1ヶ月ほどで37000回の視聴数なので、全く無名ではないし、活動も全国をツアーで回っている規模。しかしながら当時の森高千里や松浦亜弥と比較するわけにはいかないだろう。なので、この曲で聴く人が「ああ、西大寺の歌なんだ」と心を寄せてくれるのは関西限定、近鉄沿線限定ということになるのではなかろうか。まあそれでも関西ではちょっとばかりメジャーな地名なのでバンドのことを知らなくても、曲に興味を持つ人の数はそこそこいるのかもしれない。

だが歌詞を追うように聴いてみると、この曲は別に西大寺のことを歌ったものではないことがわかる。西大寺という単語は1回しか出てこない。それどころか、MVに映るのは西大寺の街ではなくて葛飾柴又だ。大きな川を背景にしたシーンが出てくるが、これは葛飾柴又の近くにある江戸川か荒川なのだろう。そう、この曲にとって西大寺というのはさほど重要ではなくて、曲名も「西大寺より」じゃなくて「葛飾柴又より」でも「高円寺より」でも「登戸より」でもよかったのではないだろうか。ただそこになんてことのない地名を入れることによって、歌の主人公にとっての具体性を取り入れつつも、リスナーが自分にとっての身近な街を当てはめやすいようにしているのではないだろうか。

(2019.7.1) (レビュアー:大島栄二)


ARTIST INFOMATION →


review, 大島栄二

Posted by musipl