EVERLONG『透明になってく』【こんな矛盾しているような真実を歌える、芯はとても強いバンドマン】
透明になってくというタイトルが興味深い。歌詞を聴いていると、むしろ逆で子供の頃のようなピュアな心が徐々に濁っていく過程を描いているように思えるから。心が濁っていって、本当に濁っても大丈夫な人は単なる悪人になっていくし、単なる悪人になってしまえば濁った世界に生きていたって何の問題もなく平気でいられる。しかし心が濁っていって、濁っていくことを避けようもないのだけれど、自分の心が濁っていくことに慣れきることが出来ない場合、存在自体を透明にしたいという、そんな複雑な心持ち。それはある意味逃げなんだけれども、じゃあ逃げずに社会の濁りといちいち対決していられるのかというとそんなに簡単なことじゃなくて。社会に背を向けて引きこもりになるか、いっそ自ら命を絶つかしないのなら、そりゃあ自分の存在を透明にしていくしかないよ。そんなことはきっと誰しも思ったことはあるだろうけれど、それを言葉にして歌にしてというのは、ほとんど出会ったことがない。僕が音楽なんてほとんど聴いていないからなのか。そうなのか。しかしこうして出会った貴重な曲が、歌詞表現としては表面的には矛盾しているような言葉にも聴こえてくるから、やはりこれを表現するのは難しいことなのだろう。そりゃそうさ、正義感を気取って「社会の悪に立ち向かえ」とか「元気だしていこうよ、勇気出していこうよ」みたいなお手軽メッセージソングは簡単に作れるし、何も考えずに歌えばヒーローになったような気分にもなれる。だがそんな正論を聴くよりも、こうして矛盾をはらんだような悩み深きソングを聴いた方が、今の人々は落ち着けるのではないだろうか。自分だけじゃない、透明になりたいのは自分だけじゃないのだと。EVERLONGという名古屋を拠点にするバンドは、そんな曲を淡々と自然体で歌っている。きっと優しいバンドマンなのだろう。そしてこんな矛盾しているような真実を歌えるというのは、芯はとても強いバンドマンなのだろう。
(2019.6.28) (レビュアー:大島栄二)