Orangeade『わたしを離さないで』
【どういうわけだか、懐かしい気持ちにさせてくれる新しい曲】
なんか懐かしい。この跳ねるようなリズムとストリングスの組み合わせがとにかく懐かしい。なんだろうなんだろうと考えて行き着いた答えが上田知華+KARYOBINだった。それで古いアルバムを引っ張り出して聴き返してみるけれど、そんなに一致するわけでもなかった。そりゃあ男性ボーカルと女性ボーカルの違いも大きくて、較べてみればまったく別の音楽なんだけれど、この新しい曲なのにとても懐かしいというのはいったい何故なんだろうか。懐かしいというのはそれを聴く人の過去にそういう体験があるから、その体験に結びつく何かがあって、それで懐かしいと感じてしまうもので、だから上田知華+KARYOBINを聴いたことのある僕がその当時の時代的な何かや個人的な体験と重ねあわせて、懐かしいと思うだけなのかもしれない。上田知華+KARYOBINの活動期は1978年から82年くらいまでで、だからそうとうなおっさんおばさんじゃなきゃリアルタイムに体験してないよ。YouTubeにも動画なんてまず無いし。だからこの曲を今聴く若い人は「懐かしい」なんて気持ちを呼び起こされたりはしないのだろう。それとも、上田知華とは別の何かの音楽と似てるポイントがあって、それで「懐かしい」なんて思ったりするんだろうか。
過去の体験とは別に、音楽が持っているテイストそのものが懐かしいと思わせるものもあるのだろうか。例えばハードロック全盛の頃にどっぷりとハマった人は、今のハードロックバンドの楽曲を聴いてもノスタルジックな懐かしさを感じたりするものだろうか。このOrangeadeというバンドの曲は、過去の誰かの音楽とテイストが似ているとか似ていないとかに関係なく、心の琴線に触れる何らかの力を持っているような気がするのだ。根拠は無いけれども。例えば洋楽を聴く時に歌詞が何と言ってるかわからなくても、曲調だけで切ない気持ちにさせられることがある。カーペンターズの一連のバラードなんて今の人が初めて聴いても十分に切ない気持ちになるんじゃないだろうか。そういうところに、音楽の力があるんだと思う。なので、僕としてはたまたま似たような音楽に惹かれつつ懐かしいという気持ちを持ったのだけれど、そんな過去体験がない人にも、この曲は十分に「懐かしい」というノスタルジックな気持ちにさせるだけの力を持っているのではないかと確信する。どうなんだろうか?
(2019.4.19) (レビュアー:大島栄二)