sumika『Familia』
【怒濤のテンポと展開〜確固とした音楽をつかんで昇華していく過程】
何だろうこのテンポの良さは。Bメロ、いやどこがAメロでBメロなのかもよく判らないくらいなめまぐるしい展開なので時間で言うけど、46秒から1分7秒あたりの息つくヒマを与えないような歌詞の連射で、その歌メロの音階のアップダウンが激しいジェットコースターのような構成になっていて、有無を言わさず気持ちを盛り上げていくパワーに変わっている。その盛上がりが向かう果てに待っているサビがまた盛上がらずにはいられないテンポとスピードで駆け抜けていってて、切れ目のない連続した一連の音シャワーのようになっている。ありきたりな曲ならAメロBメロサビというオーソドックスな展開の中で、そのサビ唐突すぎないかと首を傾げたくなったりするし、そういう曲がCMに起用されて気に入って全曲聴いてみたらガッカリするなんてこともしばしばだけれど、この曲にはそんなことがまったくないし、メロディが変わっていく切れ目を感じている余裕なんてまったく与えられない。すごい。1番(?)が終わって間奏に入ると一旦は休息向けの演奏が静かに展開され、ホッとしているのも束の間。ホーンセクション全体でテンションを持ち上げていって、すぐに歌が始まって全速力で駆け始める。この動画は3分30秒ほどでフェードアウトしていく。おそらくこの先にも曲はあるだろうと思われる。YouTubeで途中で終わるショートバージョンのMVが公開されているのを見ると、なんだかケチ臭いなあという気分になることがほとんどだが、この曲に関して言えば、もっと先があるんだろうけれども3分半で十分お腹一杯ですという満足感が満ちている。本当にもう十分に満足なのだ。それは「これ以上は要らないよ」というネガティブなものではなくて、これ以上聴ければそれこそボーナストラック的なオマケ感を感じるだろうというような、これから先はプラスαの領域だよね的な多幸感といえるだろう。
sumikaというバンドはもう何年も前にMVを見てて、その時にはそんなにピンと来るバンドではなかった。音楽の種類も普通のポップロックというもので、他のバンドとの差別化ができるような感じはなかった。しかし久しぶりに見るとすっかり変わってて。その間にメジャーデビューもしていて、多くのスタッフとの出会いと、いっそに仕事をやる中で下してきた決断のようなものが今の音楽性を作り上げてきたのだろう。何の背景も持たずにただ音楽が好きでやり始めただけの音楽少年たちが経験の中で自分たちの世界というか武器というか、確固とした音楽をつかんで昇華していく過程を垣間見るようで興味深い。いや、実際にはそんなことを考えたりする余裕など、曲を聴く間には持ち得ないほどの怒濤の音シャワーだったんだけれども。
(2019.4.15) (レビュアー:大島栄二)