ささきちか『体温』【さらりと歌うのと較べると圧倒的に感情がこもったように聴こえる声】
別れの時に感情が高ぶったりする人としない人がいて。それはその人自身が持っている感度の違いもあるだろうが、別れる当人同士がその別れに対してどのような感情を抱くのかの違いがあることが大きい。進学や転勤などによって意志とは別に強制的に別れる場合はともかく、個人と個人とが別れる場合はそこに当人たちだけの理由があって、根本的な別れる原因となる事象や理由に対して考え方が違うから別れるという結果になってしまうのであって、同じことに対して違った感情を抱くということも、すれ違いを生み、別れの原因になる下地として底流に有るのだろう。しかし、別の人間なのだから感受性がまったく同じということなどあるはずもなく。微妙なズレを異文化感として楽しむようでなければ、人と人とはつながっていけないのかもしれない。
ポップスの静かなメロディをジャジーなテイストのボーカルで歌い上げるささきちかの「体温」。さらりと歌うのと較べると圧倒的に感情がこもったように聴こえるのはこの声のせいだろうか。中くらいのレベルのアイドルが歌えばまた違う曲で違う感情として聴こえるのかもしれない。この声で歌われる別れの時に発生する情感は、少しばかり過多なものとして響いてくる。もしも付き合ったり一緒に暮らしている人がこのくらいの熱量で相手のことを考えたり想いを込めたりしていたとしたら、個人的にはちょっと息が詰まるだろうし、その息の詰まり具合が別れを決意する原因にもなるのではないだろうかと。かといってまったく気にされていないというのもどうかと思うので、心の中ではそこそこに気にされてチェックもされて、でも表面的には素知らぬ振りで。要するに、泳がされている程度の取扱いをしてもらえればと思うのだが、逆にそういう取扱いが気に入らない束縛&被束縛が好きなタイプの人もいるので、やはり相性というのはあるのでしょう。ちょっとのことは我慢して、ちょっとじゃない大層なことでも我慢して、それでもどうしても我慢できない相性の合わなさ加減だった場合は、生活のすべてを捨ててでも思い切った行動に踏み出す勇気も必要なのでしょう。いや、僕は今のところ何の問題も持ってないですけど。そして、自分が問題を持ってないとしても、相手は問題を抱えているかもしれないということには常に配慮しつつ、生きていきたいものです。
(2019.4.1) (レビュアー:大島栄二)