真空ホロウ『おんなごころ』【サビで歌われるドスの利いた声に、ひとつのおんなごころを感じる】
おんなごころって、男にとって永遠に解り得ないもののひとつだろう。そもそもおんなごころと一言でいったところで女性が100人いたら100通りあるのが普通で、もしかしたら女性100人に対して1000通りくらいあるのではないかとさえ思っている。日によって違うし、時間によっても違うし。だからもう最初から解り得ないものだとあきらめてしまうのが一番効率的なのではないかと思うこともあるが、世の中には効率を追求してはいけないものごとはあるわけで、完全な理解を目指して日々振り回されながら生きていくというのが、正しい男の生きる道ではないのだろうか。
男ばかりの中に紅一点で女性メンバーがいるというバンドは多いけれど、この真空ホロウは男性ギターボーカル松本と、ベース高原にドラムMIZUKIという女性リズム隊2人という黒一点バンド。元々は男3人だったのが、メンバー脱退後に女性リズム隊が加入して現体制になった。この「おんなごころ」など女性目線の曲が多いのだが、詞を書いているのは男性の松本。男が書くおんなごころにリアルはあるのかというと多少疑問も湧き起こるし、いやいや私はそんなんじゃないよという女性も多かろうが、まあ最大公約数的なところは押さえてあるということではあるだろう。それに女性メンバーが納得しないおんなごころを演奏してはくれないだろうし、この曲をメンバー内で初披露した時にはきっと「松本くんはおんなごころをまったくわかっていない」とかめっちゃダメ出しされたのではないだろうか。その結果かなりの修正を加えさせられたのではないだろうか。あくまで想像でしかないけれど。で、曲の最初は女性の声色みたいな細い歌声で歌われる。しかし途中から声質が変化していって、サビではドスの利いたうなり声での歌になる。演歌歌手でもそんなにドスの利いた歌い方はしないだろうというくらいに。具体的に語られる「おんなごころってこういうものよ、解ってないのね」なエピソードがすべて吹っ飛んでしまうほどの凄み方で、表面的には可憐な何かを振舞っている女性でも心の奥に持っているだろう強さ、しぶとさ、迫力を感じさせる。そういうのを情念という言葉で表すのがもっとも効率的なのだろうが、やはり効率なんかではものごとを語るべきじゃなく、言葉で置き換えたりせずにこの松本の歌を聴くことが、おんなごころを漠然とながら理解するために大切なのではないかと感じたりする。
まあ、おんなごころを理解するなんて100年早いけれど、あきらめること無く理解に努めていきたいなと思う今日この頃。真空ホロウのニューアルバムは『たやすくハッピーエンドなんかにするな』。何事もたやすくないですよ。同名のワンマンツアーは本日よりスタート。おんなごころを理解したい人たちは見に行ってください。
(2019.3.23) (レビュアー:大島栄二)