VOLA&THE ORIENTAL MACHINE『MAC-ROY』【スタイリッシュなサウンドの中の重くてガツンとしたロック特有のパワー】
画と音との両方から伝わってくる緊張感がすごい。この女性に多くの人がついていくということの意味は何なのか。ヘッドホンをつけた大勢はついていくのに歌ってなくて、MV中でヘッドホンをつけていない3人はついていかなくて、そして歌っている。それはどういう示唆を持っているのだろうか。曲のタイトル「MAC-ROY」が歌われると「真っ黒い」としか聴こえなくて、たぶん真っ黒いというのが込められた意味で、MAC-ROYというのは表面上のものでしかないのだろう。だとするとやはり奇異で意味ありげな映像にも表面上のものと込められた意味があるのではと推測したくなってしまうのだが、「勝手な感想で未来描いた」という歌詞が歌われていて、まあ僕の感想も勝手なものでしかなくて、勝手な感想でいくら読み解こうとしても結局は勝手な感想でしかないのかもしれない。まあ、誰かの目を気にして勝手な感想さえ封印するというのも愚かなことだけれども。
VOLA&THE ORIENTAL MACHINEというバンドは寡聞にして初めて知ったのだが、2005年に結成ということで結構なベテランバンド。HPのバイオグラフィには日本におけるエレクトロロックサウンドの先駆者と書いてある。2009年からこのサウンドを導入したとあって、それでエレクトロロックの先駆といえるのかどうかは議論があるかもしれないが、個人的にはそれ以前に出音としてエレクトロロックだとあえて主張するべきなのかという気もしている。もちろん音楽ジャンルが多岐に分かれ過ぎた現在にそこにこだわることにも意味は無いのかもしれない。だがあえてこだわるとして、このサウンドの特性を前面に押し出すよりも、ロック性そのものの際立ちをこそ打ち出していくべきだろう。そのくらい、飄々とした展開の底流に一本通った強さや哲学のようなものを感じる。スタイリッシュなサウンドの中に重くてガツンとしたロック特有のパワーを感じさせる楽曲である。
それにしてもみんなを引き連れていく女性を演じている祷キララの存在感がすごい。終始無表情の顔つきもすごいが、エンディングで一瞬モノクロがカラーになって笑顔を見せる、その笑顔がものすごく恐ろしい。恐ろしいといっても鬼のような形相になるわけもなく、その瞬間だけ切り取ればにこやかなので、それを恐ろしいと感じるのはそれまでの無表情の演技の成せる技なのだろう。この女優さんはかつて神聖かまってちゃんのMVに登場した逸材らしい。これまで割とアンダーグラウンドな活動が目立ってきた(勝手な思い込みかも)ようだが、この存在感があればもっともっと伸びていく人なのだろう。
(2019.3.22) (レビュアー:大島栄二)