ab initio『歓喜』【得られるものと失われるものとのバランスをどう見るのか】
静かなテイストのサウンド。歓喜というタイトルからはもっと劇的な感情の起伏がある楽曲なのかなと想像したけれど、そんなこともなく淡々と。淡々とした曲というのは必要とされるシーンが必ずあるもので、特定のシーンに特定の曲を提供しようと考えているようなタイプの人には必須アイテムとしてリサーチされるが、そうじゃない普通の人にとっては時としてBGMのような感じで流れ去っていってしまうかもしれない。この曲を公開しているチャンネルが「LINE RECORDS」で、なんだあのLINEがやってるレーベルなのかとちょっと気になる。LINEは音楽配信サービスを展開していて、だからそこを盛り上げるためにも他との差別化をしたいはずで、そのためには独自の音源が必要。他のサービスと同じ曲しか聴けないのなら、そこを選ぶ理由は薄くなって、結局料金体系で勝負するしか無くなってしまう。なのでレーベルを作ってこうしてアーチストを売り出すわけなんだろう。それが成功するのかしないのか。いくつか所属しているアーチストが成功して人気者になれば、その音源を聴くにはLINE MUSICと契約しようという人も増えよう。しかし、アーチストをブレイクさせてトップアーチストにするというのは配信サービスを成功させるのと同じくらいに難しいことで、果たしてどうなることやら。アーチストの側も、自分たちの音源リリースがLINE MUSICに限られるということになれば、聴いてもらえる機会が減るわけで。例えばCDリリースがタワレコ限定というのはよくやってて、そのアーチストのファンになったら、いつもは他のCDショップやAmazonで買ってても、そのアーチストだけタワレコで買えばいい。だが音楽配信サービスの場合は例えばApple MUSICやSpotifyと契約している人が特定アーチストのためだけに新たに契約しなければいけなくなるし、それはコスト的にも手間的にも避けたいと思う人が多いのではないだろうか(個人的意見)。今後もそういった新たなデビューの道筋が提案されていくだろう。それでも配信サービスのレーベルと契約して得られるものと、機会など失われるものとのバランスをどう見るのか。また配信サービスのレーベル以外にも生まれてくる新たなチャンス(リスク)をどう把握して判断するのかがアーチストには問われてくるのかもしれない。路上でギターを弾いてればファンが付いてきたみたいな単純な時代では無くなってきましたな。
(2019.3.19) (レビュアー:大島栄二)