Nabowa『PARK ON MARS [AFTERNOON]』【結成15周年を迎えるNabowaのカムバック】
誰かとの対話下で沈黙の間に天使が通るという表現があれば、その気まずさをしてカップなりグラスの破擦音を鳴らすなんてのも今はあるかもしれないが、結成15周年を迎えるNabowaのカムバックのリードは「Park On Mars」で、また、フリーでダウンロードできるヴァージョンも言うことがないほど良い。インストゥルメンタルで魅せるバンドやジャム・セッションからの派生で独特のグルーヴを生むグループが増えて、また、有名アーティストたちとのいくつものコラボもある中で、Nabowaは特異にして悠然に孤高たるキャリアを重ねてきた。日本語意訳での“午后、火星における公園”の響きにはNabowaらしい機知と麗美な音描写が溢れている。日々での生活に、言葉の数々に、人間関係の軋轢に疲弊したり、それ以外の人たち、生きる、生きてゆくこととはそもそも何だろうというささやかな圏域までゆるやかに届くように。休息や落ち着いた週末が施される小さい場所は寂寥と鬱血気味なニュースの群れに溢れているのがつねで、ときにヘンリー・ダーガーのように今だからこそ、ヘンリー・ダーガーのように黙思が求められると思うだけに、せめてもの、蓄積すべきは情感のうつろいを、と願う。ランタンが揺れる音さえ音楽に名付けられるのならば、音楽の中には風景の奥にもっと想像のやさしさがあるように。見栄や虚勢、大声の美辞麗句など深夜で盛り上がっても、いずれ朝焼ける。ゆっくりと。
(2019.3.8) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))