Dear Chambers『東京』【粗くざらついた声質での絶叫の中に、イライラや焦りや絶望が現れては消え、消えては現れ】
東京をテーマにした曲はたくさんあって、それはすべて東京という特殊な街と作者の関係性を赤裸々に表現したものだ。地方都市をテーマにした曲にはノスタルジーばかりが漂うのに、東京の曲には単純なノスタルジーではなく、生命そのものの格闘が描かれていて面白い。東京というのはいうまでもなく日本の首都で、経済も夢もなにもかもがすべて集まっている場所。だれもが可能性を抱いてやってくるものの、全員の夢が叶うなんてドリームランドなどではありえなくて、暮らしているうちに何が夢だったのか、そもそも夢なんて抱いていたのかも忘れてしまい、ただただ時間だけが経過していく。離れてしまえばそういった焦りのようなものはすべて消えるのに、留まっている限りそんなものは消えやしなくて。そして離れてみたところで、本当に消える訳でもなくて。じゃあ最初から近寄らなければいいじゃんと言う人もいるだろうが、その街を知らない人にこそ憧れというか本当に夢がゴロゴロと転がっているんじゃないかという妄想のような想いに取り憑かれてしまい、近寄らないなんて選択はほとんど不可能のようになってしまう。不思議な街だ、東京は。
Dear Chambersが歌う『東京』は、粗くざらついた声質での絶叫の中に、イライラや焦りや絶望が現れては消え、消えては現れ、東京という街の不思議な魔力がよく表現されている。「大切なものが増えてゆく度/見えない何かに 縛り付けられた」という歌詞が耳から離れない。本当にそうだから。その「何か」は人によって違うだろう。縛り付けられることの不快感も快感もあるだろう。すべてが否定されるものではない。だが、確実に何かに縛られる。もしかすると東京以外の地方都市や山林の田舎町でも同様に住人を縛り付ける何かはあると思う。だが、東京のそれはやはり他とは違う、特別なものがあるように感じられてならないのだ。
(2019.2.25) (レビュアー:大島栄二)