Pororoca『ローカルトレイン』【都会に出る女子と、田舎で想う男子、2018年ヴァージョン】
田舎に住む人が、都会に出た人を気遣う歌。一昨日の『遠くまで行く君に』もそうだったが、田舎に残るのが男子で都会に出たのが女子という構図が最近は一般的になってるんだなというのが興味深い。もちろんずっと前から女性も都会に出ていってたし、それこそ集団就職の時代だってそうだった。でも男も同様に出ていってて、だから都会で知り合う男女の恋の話というのが歌やドラマでは一般的だったんじゃないかなあと思う。しかしこうして田舎の男子が都会に出た女子のことを想ったり気遣ったりするというのはちょっと前では珍しかったような気がする。太田裕美の木綿のハンカチーフがヒットしたのが1975年で、44年前ですか。その頃は都会に出ていった男の裏切りを遠くから半泣きで許すみたいなテイストで、それがけなげだという感じで日本中が好きになった。で、この歌では田舎にいる男が都会で頑張る女に対して「本当は苦しいんだろう、頑張り過ぎないで弱音を吐いてもいいんだよ、戻ってきたっていいんだよ」みたいな言葉をかける内容になってて興味深い。こういう歌を聴いて、本当に都会で頑張ってる女性はどんな風に思うんだろうか。もちろん境遇も感情も人それぞれなので思い方感じ方も全部一緒ではないのだけれど、大半は「いやいやいや、大丈夫ですから。都会で頑張るの結構楽しいですから。なんとかやってるっていう言葉はそのまんまですから、嘘じゃないですから」ということなんじゃないだろうか。しかし田舎の男はひたすら「またまたまた〜、強がっちゃって。苦しいのに苦しいって言わないって、バカだなあ。オレの前だけでは弱いところ見せてもいいんだよ」と勝手な解釈をする。この温度差が本当におもしろい。44年前の木綿のハンカチーフでは田舎の女が都会の男の嘘を見抜くが、2018年の歌では田舎の男が都会の女の本音をまったく理解できずにいる。それで爽やかに高らかに歌い上げる。いろいろな意味で、まさに現代の歌だなあと感心する。
(2019.1.10) (レビュアー:大島栄二)