Absolute area『遠くまで行く君に』【きっと帰ってくるのだ。そう思いたくともほとんどの場合、遠くに行く人は帰ってこない】
大切な人が去っていく。去っていくのではなくて遠くに行く。だからきっと帰ってくるのだ。そう思いたくともほとんどの場合、遠くに行く人は帰ってこない。共有していた時間や記憶は連続しているから共有なのであって、一旦途切れるともう記憶でしかなくなる。それでも、遠い先での幸せを祈る。祈ることで、こちら側の記憶を途切れさせないようにと願うのだろう。
Absolute areaという若いバンドの優しい歌は心にしみる。映像は若い女性が地元を離れて遠くに行くことを想わせる。海沿いの田舎町で暮らし、きっと都会に行くのだろう。新しい生活への希望に満ちた女性の表情。送り出す男性は頑張れと応援するのだろう。女性の行く世界はここからは遠くだけれど、遠くに行った女性にとってはその遠くこそが「ここ」になるのであって、「ここ」での生活の中で海沿いの町は「遠く」になっていく。それは仕方のないことだ。新しい「ここ」での日々こそが人生なのであって、それを誰が止めることができようか。
若いバンドの歌だから、男女間のストーリーとして描かれるが、別れとはけっして若い男女の間にだけあるのではない。友人との別れ、家族との別れ。別れはすべてが破局なんかではなくて、新たな希望に満ちた送り出しということもある。その時々の自分にとっての様々な別れの形が、こういう歌の断片断片によって思い出されるし、その思い出しが、今の自分へ至る道を具体的に再現させたりする。これからの別れへの切なさとは別の、これまでの別れの切なさとして思い出されてくる。このMVは静止画のスライドショーという形式で、その上にバンドメンバーが登場せずにモデル女子をフィーチャーしていて、個人的に嫌いなパターンが2つも重なっている。だけれども、ここで取り上げたくなった。それは楽曲が持つ力強さの故だ。「いつも君の無事だけを祈ってる」という歌詞がとても切ない。それは言葉の通りに君のことを祈っているのではなく、君のことを祈るという形で自分の想いを断ち切れずにいる心が透けて浮かんでくるからだ。
(2019.1.8) (レビュアー:大島栄二)