久保田利伸『So Beautiful』【各世代にある、そして僕にとっての歌が上手いシンガー】
各世代にとって歌が上手いシンガーというのがあって、ある世代にとってそれは平井堅だったりするだろうし、僕にとってはそれが久保田利伸だったりする。センスがいいとか時代の先端を行っているという価値は時代が進むにつれて陳腐になっていくことが多く、登場した時の久保田利伸は歌が上手いという以上に時代を先取りしているセンスに注目が集まっていたように思う。アイドルたちに曲を提供する作曲家から自ら歌うシンガーとして表舞台に出てきて、そのままではセンスの人で終わるところが超名曲『Missing』『CRY ON YOUR SMILE』等の名バラードで一気に知名度を高めて地位を固める。しかしHIP HOPというか、独自の音楽性を追求する中で一般リスナーからは少々迷走気味に映りシーンの中央からは一旦姿を消す。しかしずっと消えてしまうことが無いのは、堅い固定ファンがいるということに加え、彼の歌の上手さというのが大きいのではないだろうか。歌が上手い人はどんな新曲であれ素晴らしく感じられるし、彼の場合時おり発表するバラードがいずれも秀逸だから、その歌の上手さがさらに数倍増しになっていく。
そういうのはそのシンガーが一番輝いた瞬間を体験した人が一生持ち続けることだろう。そうして虜になった人はその残り香のようなものを一生追い続けてしまうのだろう。昨今話題のボヘミアンラプソディの盛上がりを見ても、その人が既にこの世にいないというのに幻影を追い続けるのだなと複雑な気持ちになるのだが、こうして生きている幻影の今を追えるのはある意味幸せなことだ。新曲のMVはショートバージョンで、久保田利伸のオフィシャルチャンネルはことごとくショートバージョンだしストリーミングサービスにも久保田の曲は存在しないので、結局「買え」ということなのだろう。この曲のショートバージョンでは1分半ではサビに到達しないので、買ってでも聴いてみようという気になる。それも自分にとっての歌が上手いシンガーなのだから仕方ないというか、当然というか。
(2018.12.8) (レビュアー:大島栄二)