優河『さよならの声』【独自性を追求して、打ち出して、石橋凌など知らないファンを獲得していって】
二世タレントというのは否が応でも親との比較をされてしまうし、親が偉大であればそれだけ比較に悩むことになる。だったら親と同じ道など歩まねばよかろうにと思ったりするが、じゃあタレントだけが親と同じ道を歩むのかというとそんなことはない。東京にいると暮らしの中で親の跡を継ぐ生き方を身近にみることはあまりないが、京都のような街にいると創業100年以上の和菓子店の何代目みたいな人がゴロゴロいて、直接の知人ではないにせよ、跡を継ぐ人生を間近で見ることはけっして少なくない。普通の人が資金を貯めてやっとの想いで独立したのでは生涯到達しないような大きなお店を継ぐというのは華やかに見えるが、そういう人も意外と地味に接客してるし、家族経営でしかない和菓子店を何代目に生まれたからというだけで継ぐかどうかの選択を迫られて継いでいる人などは本当に地味だ。タレントの世界も華やかだし親が入口で後押しをしてくれるのならと入ってみるけれど、全員が成功するわけでもないし、そこは実力の世界。親の完全コピーなどできる訳もないし、したところでそれが評価されるわけでもない。比較をされるという条件の中で自分を出す。それはなかなかに大変な道だろうと思われる。
優河という女性シンガーはARBの石橋凌の次女で、だから原田美枝子の娘でもある。長女が母親と同じ女優の道を歩んだのに対し、次女は父親と同じシンガーの道に進んだ様子。女優ならばその評価は作品と脚本に左右されることが多いし個人だけの評価が数字になることは比較的少ない。だが、シンガーは評価がとてもシビア。ましてや昨今は音楽での成功は以前にも増して困難になっている。実績のある父親だって現在の仕事は歌手より俳優メインだし。よくぞその方向に進むことにしたなと思うくらいだ。彼女の歌を聴いていると、父親に似ている部分を感じる。男女の差があるので声はそんなに似てはいないが、歌い方だ。鼻にかかるところ。冒頭33秒のあたり「静かな朝がひとり」の「が」の部分での籠り方が石橋凌を彷彿とさせる。そこに気がついたらもう全編通して声の出し方がまさにDNAだなあと感じずにいられなくなる。
老舗和菓子屋に生まれた何代目がただただ伝統の菓子を守っているだけで次の代に受け継いでいけるのかというとそんなことはない。客の好みは時代によって変わっていく。それに対応して新商品を出していけなければ商売は頭打ちになり、尻すぼみになってしまう。新商品を開発してその代の独自性を打ち出しているお店だけが暖簾を守っていけるのだ。シンガーも同じことだろう。DNA的なポイントはあっていい。それを求めるリスナーもいるだろう。だがそれだけでOKなはずはない。彼女なりの独自性を追求して、打ち出して、石橋凌など知らないファンを獲得していってもらいたいものだ。
(2018.11.22) (レビュアー:大島栄二)