レイラ『Emma』
【この終始不機嫌な雰囲気のボーカルが妙に心地良い】
この終始不機嫌な雰囲気のボーカルが妙に心地良い。失恋したあとのまだ後をひくように残る想いが綴られた歌で、元に戻りたい気持ちとどうせ元に戻れないんだからしゃーねーなという気持ちが交錯しつつ進行してて、で、結局どっちなんだよと聞きたいけど、多分主人公だってどっちなのかなんて決められないでいるのだろう。その中で機嫌良く「私はあなたの幸せを遠くから祈り続けているよ」なんて歌われてもそんなの偽善だろう、本心じゃないだろう、本心なんだったらもう愛情なんて残ってないだろうという気分になる。つまりこの不機嫌な雰囲気で歌われる、失恋直後のどっち付かずで中途半端なもやもやな気持ちというのがすごくリアルでスーッと心に入ってくる。心にスーッと入ってくるそのスムーズさが爽やかな感想を保証するのかというとそんなことはなくて、寧ろ逆でこっちまでもやもやな気持ちにさせられてある種迷惑でもあるのだが、音楽を含め芸術作品を鑑賞するというのは単に楽しくスッキリな気持ちになることを目的としているわけではなく、人間が生きる上で味わうべき様々な感情、明るい気持ちだけじゃない暗い気持ちやもやもやとした気持ちなどを疑似体験するものであるはずなので、だからその迷惑であろうとモヤモヤな気持ちを体験させてくれるこの作品は素晴らしいのだと断言できる。ただ、この不機嫌な雰囲気のボーカルはこの曲だけで披露しているのではないだろうし、だから他の曲もおそらく不機嫌そうに歌っているのだろうし、声が不機嫌そうに聴こえる以上他の歌い方なんて難しいだろうし、彼らのワンマンライブで1〜2時間ずっとこの不機嫌な雰囲気に浸ることになるとさすがにどうかなあという不安はあるわけだが、その辺はまあいろいろな手を打ちながら、ショウとしてのエンターテインメントが繰り広げられるのではないだろうか。もちろん、1〜2時間ずっと不機嫌な雰囲気に包まれることによって得られる何かというものもあるわけなので、レイラのみなさんはそういう道を追求するというのも、他にない個性を持ったバンドとして生きていく道ではあると思う(実際のライブがどんな雰囲気なのかはまったくわからないので、読者の皆さん自身が直接行って体感してみるのがいいと思います)。
(2018.10.30) (レビュアー:大島栄二)