ナミオカコウタロウ『星を見にいこうぜ』【そこの倒れそうなあなたに届いて欲しい、自分を赦す歌】
優しい歌。今の日本では鬱とか過労死とかがさほど珍しくなくなってきていて、それこそが異常なことのはずなのに日常になっていて恐い。なぜそんなことになっているのかというと、結局はマジメすぎるからなのだろう。子供の頃からあれをやらなきゃこれをやらなきゃと追い立てられ、24時間しかないのだからやれることなんて限られていて、だからあれはダメこれはダメと禁止事項が突きつけられる。この曲でも「間違ったらダメ、出る杭になったらダメ、夢が無いとダメ、結果を出さなきゃダメ」とダメのオンパレードを歌ったあとで「今日はそんなことは思い出さなくて良いよ」と言う。人は「こうしなきゃ」という想いが向上の原動力になる。それはそうなのだが、それが自分が本来持っている向上したい方向であるならいいけれど、誰かが考える方向でしかないということも多く、そういう時に自分を見失って心身共に倒れてしまうのだろう。ナミオカコウタロウという横浜のシンガーソングライターの歌は、倒れそうになっているすべての人に対して赦しを与えてくれる。赦しというとまるでこの曲やシンガーが上位から赦すというようなイメージに感じられるかもしれないが、そうではなくて、結局赦すのは自分自身であり、この曲が他者を赦すような権限を持っているわけではない。誰もが自分の「ダメ」な部分を赦す権限を持っている。だって自分の人生なのだから。しかし時にそのことに気付かず、自分の人生を失ってしまう。自分の人生は自分のものなのだということに気付ければ良いだけで、そのきっかけはいろいろなところに転がっている、この曲のように。それに気付くことができるのかどうか。まあ気付けないから倒れていくんだろうけれど。こんな小さなレビューサイトでさほど有名じゃないアーチストの曲を紹介したところでどのくらいの人に届くのかはわからないけど、時には優しい曲に耳を傾けてみてはどうですかと、小さな声ながら時々声を挙げていきたい。
(2018.10.16) (レビュアー:大島栄二)