TETORA『ずるい人』
【ああ、TETORAはズルくてカッコいいなあ】
切り裂くようなハスキーな声。ハスキーというのかこれ? ハスキーとはちょっと違うのかもしれないけれど、各フレーズの語尾で裏返るような発声が限界に挑んでいるように聴こえるし、限界に挑んでいるような歌はやっぱり魅力的に聴こえる。ズルいよこれ。ズルいって言い方もおかしな話で、きっとボーカル上野はゆねはこういう声なのであって、自分の声で自分らしく歌ってズルいなんて言われても「何が?」でしかないはずで、100人には100人の顔があるように、100人には100人の声があり、この声はまさに歌を歌うにピッタリの、歌を歌うために生まれてきた声なんじゃないかなあ。歌詞を読みながら聴いてると、この曲の主人公である女子が相手の男子を「ずるい」と言っている理由がよくわからなくなってくる。君に書いた歌を本人が歌うのがずるいのか、悲しい曲を嫌がったり悲しんだりしないのがずるいのか。別れちゃったのに今も君の歌を歌うことになってて、それがずるいのか。よくわからない。けれど、この女子がずるいと言っているということはよくわかるし、個別具体的なずるい理由は明確じゃなくとも、全体的な感じとしてずるいなあということはよくわかる。歌詞は論文なんかじゃないので、全体的な論理が一貫しているとか、何かの理由を明示するとかは必要ない。1曲の中で印象に残るいくつかの言葉がダイレクトに心に届いてインパクトを与えられるかどうかが重要で、それがなければどんなに理路整然とした歌詞を構築したところで誰もその内容を精査してくれはしない。切り裂くようなハスキーな歌声が、語尾で裏返るような発声が、その度に心を強引なまでに振り返らせるし、ひとつひとつの単語の寄せ集めが、ああ、この相手の男子はずるいヤツだなあと納得させる。それもわずか2分にも満たない曲で心を引きずり込み、主人公の女子の味方にさせてしまう。ああ、やっぱりTETORAはズルくてカッコいいなあと思わずにはいられない。
(2018.9.18) (レビュアー:大島栄二)