さとうもか『melt summer』【夏の歌なのにクリスマスソング的な華やかさがせつない】
何故だかせつない。けっして歌唱力があるわけじゃないし、舌足らずというか鼻にかかる声だし、魅了される歌じゃないのにとてもせつない。歌詞の内容がとてもせつない。好きな人に好きになって欲しい、声をかけてもらいたい、断られる理由を探しては防御線を張る。期待し過ぎるとショックも大きいから。こういう歌をキュートなアイドルが歌ったらどうなんだろうか。これでもかという声量で歌唱力抜群のシンガーが歌い上げたらどうなんだろうか。この「きっと嫌われる」的な不安を表現することは出来るのだろうか。恋愛未満の中で起こる出来事に揺れるというよりぐるぐる回るぶれのような状況は伝わるのだろうか。いやそれは伝わるよという人もいるだろうし、まあ伝わるだろうとも思うけれども、さとうもかのこの歌で伝わっているものとそれはまったく違うんじゃないだろうかと思うし、このあとをひくような切なさは生まれてこないんじゃないのかなあと正直思う。さとうもかという人のこの自信なさそうにつぶやくような歌唱でこそ伝わるなにかというものが、この曲では見事に出ている。しかしただ朴訥と歌えばこのテイストが出るのかというと、だったらアコギ弾き語りでも同じじゃねえかということになるのだがそうではなくて、この曲のこのアレンジがとても華やかで秀逸だ。木琴でトレモロのようなフィルがイイ。ウインドベルのような鳴りモノが随所に散りばめられていてイイ。ドラムとベースが全体を締めていて、鍵盤とストリングス系が交互にサウンドの主役を担っている。むしろギターはちょっとしか出てこなくて、出てきた時にはソロみたいにがっしりと弾いている。すべてが素晴らしい。ゴージャスだ。このゴージャスサウンドは、夏の歌なのにクリスマスソング的な華やかさを生んでいる。ひと夏の恋をクリスマス的な雰囲気で支えていて、だから単にせつないのではなくてエグイほどにせつない感じを生み出しているようだ。
(2018.9.3) (レビュアー:大島栄二)