橘いずみ『永遠のパズル』
【ひとつの文化の円熟期の一例として貴重】
善くも悪くも90年代の音楽だなあと思う。一方でTRFなどの小室サウンドがあり、渋谷系の音楽もあり。インディーズ系の勝手なサウンドの広がりと音楽ビジネスが100万枚を連発した、そんな中、85年頃からのロックの隆盛とタイアップが結びつくことでヒットが生まれるという、そのピークにあった曲のひとつではないだろうか。当時は女尾崎豊とも呼ばれることがあって、じゃあその呼び名は誰が言い出したのかというと、そういうキャッチフレーズを付けることで話題にしようとしたスタッフ側なんだろうと思う。ロックというスタイルが市民権を得て、そういうスタイルを産業として生み出さなければという思惑は確かにあって。そこに女性ロックシンガーに憧れて目指した人がちゃんと座っていったという、ある意味文化が円熟する時の典型的なパターンと個人的には思っている。だからといって揶揄するとかではなく、その人が生まれて巡りあったタイミングというものはすごいなということ。例えば現在のように音楽不況といわれる時代の女性シンガーでは、頑張ったってその椅子はなかなか見つからない。今ならアイドルグループの一員を目指すのが一番手っ取り早いのかもしれないが、じゃあ今から準備を始めたとして、スキルが身に付いた時にそのムーブメントが続いているのかというとそんな保証は無くて。だから自らの希望が社会的背景とたまたまタイミング的に合致するかどうかというのは、本当に運でしかない。そういう意味で、この曲と橘いずみというシンガーは、ひとつの文化の円熟期の一例として貴重だなあと思ったりする。昨年デビュー25周年ということで、ああそんなに経ったのかあと不思議な気分になる。現在は榊いずみという名前で精力的に活動中。
(2018.9.1) (レビュアー:大島栄二)