浜田麻里『Black Rain』【信じる音楽を道として人生賭けて極めようとする、究極のヘビメタ女王】
古巣ビクターに何十年ぶりかに戻った浜田麻里のずいぶん久しぶりのMV。いやあもう圧巻。圧倒されるというのはこういうものか。思えば僕がビクターに入った年にソウル五輪のテーマ曲に選ばれてブレイクしたのが浜田麻里だった。それまでもヘビメタの女王という異名を誇っていた彼女だったが、突然のブレイクで行なわれた武道館公演で、客席には親子連れの姿もかなり多かった。五輪のテーマで知ったのだろう。今で言うならゆずやいきものがかりを観に来た感覚だったろう。しかし浜田麻里が見せたのはまさにヘビメタの女王そのもののステージで、困惑した親子連れの固まったうしろ姿の数々は今も忘れられない。当時は「もっと売れ線の曲をたくさん用意して幅広い層のファンをつかめば良いのに」などと思ったものだ。やがてビクターが買収したMCAの目玉アーチストになってもらうべく移籍することになって、やがてシーンの中で大きな存在感を示すことはなくなっていった。
しかし当時の多くのアーチストたちが解散や活動休止していく中で、浜田麻里の活動はまったく変わること無く、そしてこれだ。プロだからそりゃあ売れた方が良いに決まってるが、じゃあ大事な何かを売り飛ばしてまで売れれば良いのかというとそんなことはなく、どんな時にも変わらず自分の表現を追求していった結果がこれなのだろう。まるで1人伝統芸能。こんな声、道を極めた人にしか出せないよ。この声を聴くとボーカルは肉体という楽器を使った表現というのを理解せずにはいられないし、この声のために肉体を鍛え、節制もしているだろうことは容易に想像できる。今なら、多くの俄ファンなんかのために売れ線の曲にシフトするのは愚かな自殺行為だと断言できる。この曲の、低音域でも分厚い声の広がりを魅せ、高音域では余すところ無く30年前を超えているのではないかというくらいの伸びを聴かせて、わずか1分半のショートバージョン(ビクターはいつもこのショートバージョンだ、まったく)でも魅力のすべてを出し尽くしていて、本当に見事。ストリーミング配信でもアルバム全曲聴けるので、ヘビメタ好きはもちろん、ヘビメタそんなにわからないという人も是非とも聴くべきですよ。
(2018.8.4) (レビュアー:大島栄二)