シゼントウタ『おやすみ』【大好きだった歌を思い出させる偶然のイントロ】
イントロがね、グッとくるんですよ。過去に大好きだった歌があって、そのイントロに似ている。激似。いや比較してみるとちょっと違うけれど、フレーズの端々が似てて、そういうのが好きだった曲と出会った時の情景や感情を蘇らせる。それは僕が主催していたレーベルライブに出演してくれたユニットの曲で、夫婦だったのか夫婦じゃないけどカップルだったのか、それともカップルでもない単なる男女ユニットだったのか。まあそれはどうでもいいけど男女2人のユニットがレーベルのオムニバスCDに曲を提供してくれて。ロックバンドが多い中でその静かな音とたたずまいがとても印象的だった。その曲はさほど有名になったわけでもなく、だからそのフレーズを彼らが知っているはずもなくて。30秒ほどのイントロの中に込められたささやかなフレーズは知らないなにかに似るということは多々あって、その偶然の奇跡が、この新しいバンドの音楽に急速に興味を持たせるということが面白い。イントロが終わって歌が始まると、その古い曲とは似ても似つかない展開を見せて、そこに彼らのオリジナルが見え隠れする。イントロよりも楽器の音数は増えて、だから音量を測るメーターでは大きな値を示すのかもしれないが、耳と脳が感じる印象はより静かな空間を形作っているようで面白い。イントロから入ってどうしても音とサウンドに意識が向いて、彼らが歌っている歌詞の世界がなかなか耳に入ってこない。シゼントウタというバンド名は「自然淘汰」とも「自然と歌」とも読めて興味深い。そういう二重の意味を持つ名前のバンドだから、歌詞に注目すれば複雑なことを歌っているのかもしれないとは思うのだが、今日のところはそこまで意識が向かない。音楽との個人的な関わりというのはそういうものでいいのだろう。次に聴く機会があれば、その時は歌詞をもう少し注意して聴いてみるのもいいのだろうし。
(2018.7.31) (レビュアー:大島栄二)