CRCK/LCKS『No Goodbye』【独特でマニアックに見えるが、別に意地なんかではなくて彼らの普通なのかもしれない】
CRCK/LCKSはユニークなバンドだ。先日出たばかりのアルバム『Double Rift』は奥行きが深く立体的で、個の内面に深く到達しているかのようなたたずまいでありながら、それでも絶対に隠し通す壁のようなものを感じる内容だった。言葉の選び方や、それぞれの曲で見せる軽さと重さ。そのバランスがとても塩梅良く、暗くなり過ぎることもなく、不要な軽さに飽き飽きすることもない。で、いろいろな種類の曲を含みつつも、第1弾MVとして公開してきたのがこの『No Goodbye』だった。この曲、わかりやすいのかというとそうではない。わかりやすさで新規リスナーを獲得するのなら『O.K.』や『窓』だろうし、心をぎゅっとつかもうとするのなら『たとえ・ばさ』や『病室でハミング』だろう。しかしこの『No Goodbye』。わかりにくい。何がノーグッドバイなのかもすぐにはよくわからない。さほど印象的でもない言葉を散りばめて、それを噛みしめつつ脳内で再構成していかなければイメージが像を結ばない。新譜の中でも極めてわかりにくい曲だ。実験音楽のバンドであればもうそういう曲しかないのだが、わかりやすい曲もあるのだ。それなのにこの曲をMVとして、多くの人の耳に届きやすいサンプルとして提示する。これを聴けと。いやはや、その潔さというか不器用さというか、恐れ入る。スタッフたちはそれで良いと考えているのだろうか。それとも、こういう提示の仕方に付いてこられないリスナーなど切り捨ててOKということなのだろうか。本当によくわからない。だが、このわかりにくさということこそ、CRCK/LCKSの真の姿、本領発揮ということなのかもしれない。リズムの構成も独特でマニアックで、無駄といってしまえば無駄なサウンドなのかもしれないが、優雅に泳ぐ水鳥が水中で懸命に掻いている足を時おり不意に水上に上げてみせてくれるような、そんな意地のようなものもそこに感じられるし、別に意地なんかではなくて彼らの普通のリズムが既にそういうものなのかもしれない。ちなみに4分を過ぎたあたりからまったく違ったテイストの演奏に移っていくが、これはアルバムの中では『Skit』というタイトルを持ったインストの別曲です、念のため。
(2018.7.27) (レビュアー:大島栄二)