THE PRISONER『喜びの歌』【繰り返しオンリーのシンプルなメッセージ、これは意外にアリだ】
防波堤でオペラ長の歌を歌う謎の男。そうかと思うと普通の人の普通の格好の男女が走り始める。するとさっきまで防波堤の上に立っていた謎の男も一緒に走り出す。曲が進むと「あれ?」と思う。サビが無いのだ。いや、違うなそれは。サビしか無いのだこの曲には。「生んでくれてありがとう」から始まる歌詞は「ありがとう」シリーズ、「サンキュー」シリーズ、「ノーサンキュー」シリーズと続いてまた「ありがとう」シリーズに立ち戻る。この感謝の気持ちを表明するパートが繰り返すこの曲の構成は一体なんだ。そのシンプルというか淡々とした構成が、メッセージを強めている。これ、なんか聴いたことあるぞ。そう、あれだ。大事MANブラザーズバンドだ。『それが大事』も「○○こと」「△△こと」と箇条書きのような部分があって、締めくくりで「それが一番大事」と結論づける。この繰り返しには表現上強いインパクトを与える効果がある。ポップソングのサビで繰り返しが多用されるのもそういう効果があるからだ。だがそれが曲全体で繰り返しオンリーになったらどうなんだろうか、それはちょっとやり過ぎなんじゃないだろうかといつも想像していて、で、この曲。聴いてみて、やり過ぎなんてまったく感じない。たたみかける勢いに圧倒されるばかりで、もう全面的に「これはアリ」と認めるしかない。考えるに、それがアリなのかどうかは繰り返しの手法がどうかということではなく、そこに込められた内容に依るのだろう。この曲はシンプルな構成にシンプルなメッセージが込められているから、シンプルに強くなっている。
(2018.3.20) (レビュアー:大島栄二)