羊文学『Step』【「今までの歌は忘れておくれよ」】
1年ほど前にレビューした羊文学のMVはもう削除されていて、いやあ聴ける時に聴いておかなきゃすぐに消えちゃうよねネットのコンテンツはと再認識したんだけれども、そのレビューMVでは笑顔で「嫌い」と連呼することで一旦心にバリケードを作らせる表現をしていたのだが、それとは打って変わってこのStepという曲では、ナチュラルなテイストでスーッと心に染み入りつつも、いちど染み入った心の中で増殖するという、ある意味ウィルスのような破壊力を身につけたような印象がある。この曲の後半で「今までのことは忘れておくれよ」と歌っているのがとても心に残って離れない。人生は積み重ねによって築かれると一般によく言われて、社会が安定している時はそれでも良いのかもしれないが、歴史を見ても安定し続ける社会というものはないのであって、安定がぶれ始めると動乱になるのにそんなに猶予期間はない。社会などと大袈裟なことでなくとも個人でも同じで、順風満帆な時はそれが生涯続くと思うし、そんな人の一瞬を見て、自分もそうなろうと努力を重ねて永遠を目指す。だがそんな永遠など存在しない以上どこかで息が切れ、人生の谷間にさまようことになる。それは特別不幸なことではなくて誰にも訪れるあたりまえのことで。だからそんな永遠など目指すことなく普通の歩幅で歩いていけばいいのだけれども、時に人はステップを駆け上がることを自分で自分に強いる。その愚かさが、詞に込められているような気がしてならない。
「今までのことは忘れておくれよ」という歌詞は、ボーカルの気怠い歌い方によって「今までの歌は忘れておくれよ」とも聞こえる。これは彼女たち羊文学が現在次のステップにチャレンジするために孵化しようとしていて、そのための過去の自分たちへの決別宣言のようにも感じられて、普通の歩幅というのはなかなか難しいものだなと溜息をつきたくなった。
(2018.2.8) (レビュアー:大島栄二)