GRAND FAMILY ORCHESTRA『ユリーカ』【複数の錯綜する感情を同時に持っていた方が】
この声は喉のどこを通って音になっているんだろう。最近はそんなことを考えてしまうボーカリストが多いように感じている。このバンドのボーカル松山晃太もそんなひとりだ。傾向としてはT.M.Revolution西川貴教の声に近い。かすれ系というか、喉の中心からは外れたところを通って声になっているようなボーカルの場合、並程度の力しかなければ単にヘタといわれておしまいなのだが、声量を含めて力を持っていればユニークな声質が逆に特徴として武器になる。彼もやはり力を持っているのだろう。聴いていてサウンドの中心にしっかりと立っているのが心地良い。バンドとしての音のまとまりにも注目したい。リズムとしてはラテン系のビートが基調になっていて、だから普通にやっていたらノリノリでハッピーな感じになっていくところを楽曲のメロディとギターアレンジが全体のメロウさを強調していて、寂しくもあるようで、でも底流に希望を秘めているような爽やかさを感じさせる。ただ速いとか、ただ明るいとか、そういうシンプルな楽曲も悪くはないが、人が常に複数の感情を秘めながら生きているように、楽曲もまた複数の錯綜する感情を同時に持っていた方が味わい深さもひとしおである。そういう意味で、この曲と、このバンドの力はなかなかのものだなと実感する。
(2017.12.11) (レビュアー:大島栄二)