JOHN LENNON『Happy Xmas(War Is Over)』【今ではクリスマス・シーズンと平和を願う歌として】
近年は終末期医療に関して多様な認知が高まってきているゆえに、精神科医のエリザベス・キューブラ=ロスの受容プロセスがガイドライン的に参照、かえりみられることがある。あくまで誰しもではないとことわりを入れておきつつ、自身の生命の終わり、または、難病が見つかったときなど、まずは脳内で処理しようとするが追いつかず、それは違うと否認に向かおうとし、そして、自身で抱え込んでしまう。次に、自分が何故にこんな目に、という憤りに似た感情が湧き出てくるのと、時にそれが社会や他者への不満、世の不条理さに向く。そして、足掻くように民間療法や何か信じられるや救われないか、というものを探したり、通ったり、資料を漁ったりする。あれこれを試して、悲しみ、落ち込み、最終的に「受け入れるしかない」というフェイズに入るのが最良、と言われるが、実際どうなのだろう。段階論ではないような気もしながら、「受け入れるしかない」までの中で何かと起きるケースも多いだろう。ましてや、現実的な苦しみ、重さは当人から、徐々にまた周囲を侵食する。
ただ、これは終末期医療の面だけではなく、こう不穏な世情になるほど、言葉を変えて似たようなことが各々の精神論に代替されてもいる。生きる苦しみをどこに昇華させるのか、といった大袈裟さではなくても、何が起きるか分からないときに気持ちだけを前向きにではなかなか足が追いつかないときの杖のようなものとして。
すっかり定着化したようなハロウィーンが終われば、早くもクリスマスの足音がし始める、多くのクリスマス・ソングに混じってジョン・レノンのこの曲もこれまで何度聴いたか分からないほどに街を彩っている。クリスマス・ソングはでも、よく聴くと、そこまで突き抜けた多幸感のあふれるものが少なくて、今日明日で変わってしまう情景を描いているものほどタイムレスな強度があるのは人間社会が持つ無常観、会者定離たる由縁に依るのかもしれない。
この壮大なアレンジメントとバック・コーラスとともに高揚する音風景の中で、ひそまされるメッセージには年々ナイーヴになる。1971年12月1日にリリースされたときは時季外れでそこまで話題にならずに彼自身がインタビューでもそのタイミングを間違えたと言っていたが、今ではクリスマス・シーズンと平和を願う歌として世界中で流れる。曲名が周知のとおり『Happy Xmas(War Is Over)』なとおり、当時のベトナム戦争に対しての憂いも込めているゆえに、〈The world is so wrong / And so happy X’mas〉や〈Let’s stop the all the fight〉という詩が行間を膨らませる。前倒される季節の中で、また、悲しみが溢れる社会の中で各々が懸命にもがきながら、どういったフェイズで日々を受け入れることができるのか、できないまま居るのか、考えながら、もう一か月ほどは平和であればと。
(※2020.4.28時点で、動画が削除されているのを確認しました。レビュー文面のみ残しておきます)
(2017.12.1) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))