The Selecter『Frontline』【薄暗いパブ感丸出しの空間の「フルーツ盛り」の思い出】
十年以上前、繁華街の外れの喫茶店によく通っていた。パブを居ぬきした内装で、恒常的に客はいない。とにかくあやしい店だった。若い雇われマスターがいて、ときどき、裏事情があるとしか思えない「フルーツ盛り」をただで出してもらうようになった。何度か音楽の話もした。彼は2トーンというスカのジャンルが好きで、The SpecialsやMadnessは当然として、ほかのバンドも教えてもらい、CDも借りた。その中にThe Selecterがいた(彼らも2トーンの代表的レジェンドなのだが)。ノリのよさはもちろん、女性ボーカルというのもかっこよく、瞬間風速的に何度もくり返し聴いた。とは言え、以降、彼らのDiscographyを追うことはなかったが、なんと、現在も活動中とのこと。さらに新譜まで発表。この新しい曲を聴いて、誰もいない夜の喫茶店のことを懐かしく思った。薄暗いパブ感丸出しの空間の思い出が不思議とこのノリのいいスカのリズムと合い、私はしゃかしゃかとあやしく足を動かすのだった。
(2017.11.8) (レビュアー:夜鍋太郎)