Charlotte Gainsbourg『Rest』【悲しみに見据えた上で休みつつ進めるかどうか】
二世を巡る問題はシビアになる。特に、偉大過ぎる先代がいると余計に。同じ道に行かず、成功しているケースもあるが、芸能や芸術方面におのずと向かうのは環境要因だけではなく、まずは最初に触れる大人が親である可能性が高いというのもあるのかもしれない。そんな中、シャルロットは比較的どころか独自の感性と、フレンチ・カルチャーの更新と女優として世界に大きく寄与している一人だと思う。父は言わずもがなのセルジュ・ゲンスブール、母はジェーン・バーキン。音楽面では、1984年に録音された「Lemon Incest」では今だとポリティカル・コネクトネスにすぐに引っ掛かりそうなデュエットを父娘で披露しつつ、もう随分前になってしまうが、06年の『5:55』は世界中の話題をさらった。ほぼ母国語の仏語はない英語でのグローバル・スタンダードな作品にプロデュースにはレディオヘッドなどでお馴染みのナイジェル・ゴドリッチ、エールのメンバーからジャーヴィス・コッカー等、クセのある人材が彼女の音楽を立体化し、見事な作品となり、彼女自身の音楽家としての在り方も確立させた。その後も、ベックと組んだ2010年の『IRM』も佳作だったり、ライヴ活動、俳優活動を経ながら、この『REST』は既に音楽家シャルロットの成熟期と好戦性を昇華さえたかのような気配がしていて、プロデューサーはSebastiAnに迎えているというだけで昂揚するものがある。マッシブな影響が彼女にどういった影響を及ぼすのか。そこから、かのポール・マッカートニーやオーウェン・パレットという錚々たる面々が参加したものもあるが、タイトル曲を。編曲、プロデュースはダフト・パンクのギ=マニュエル・ド・オメン=クリストで、MVでのメッセージ性の強い映像のカットに柔和なエレクトロニクスが波打ち、ポエトリー・リーディング的な彼女のウィスパー・ボイスが融けるさまにはけっして劇的な盛り上がりもないが、3分半ほどに思えない惹きつける何かがある。
どんな国、民族性、更には親、環境、共同体、繋がりのなかに生まれるかはどうにもならず、また無事に生まれてもその後は託される「個」の気質がある。選べない未来に飛び込むのもいいだろうし、選べるかもしれない未来に迷ってみるのもいいだろうし、決まり切った未来に嘆息をこぼしてみるのもいいだろうと思う。どれでもエンディング・ロールが流れる頃にはしっかり休息のときは平等に用意されている。たとえ、一つ前に鉄条網があっても、後ろは針の筵でも諦めることはなく、悲しみに見据えた上で休みつつ進めるかどうかなのだと思う。
(2017.11.7) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))