小栗久美子『風』【トルンという名の、佇まいがすでに風景のベトナム竹琴】
トルンという名のベトナム竹琴。楽器の佇まいがすでに風景。マリンバを縦に吊るすというか、ハロン湾に浮かぶ帆船?!えーともっと身近なサイズの、干して、乾かしているような、港町できれいに吊るされ整列された魚の干物を見た時の、いい匂いのあれだ。加わる少しの力で、楽器全体をつなぐ糸が振動し、音は出さないままゆらゆら揺れているのがまたいい。竹筒を叩く「コン!」という音の集合。コンが、コロンになり、ラララになる。継続音に聞こえてくる音色の、衰退カーブを裏切るように盛り上がるトレモロ。陸上短距離走者がスタート何歩かで走りを変えている繊細な制御よりもっと細かく、身体能力でエモーショナルな音のカーブを描いている。
(2017.10.20) (レビュアー:北沢東京)