葉緑体クラブ『とある真夏日の早朝』
【そんなことはどうだっていい】
ネコが延々とうつる謎のMV。のんびりとした映像に乗って聴こえてくるボーカルの声もどことなくのんびりとしている。歌われている言葉を追ってみるとなんとなく煙に巻かれてしまうようで。追い抜いてしまったのです。それは一体何が何を追い抜いたのだろうか。ただの追い抜いたではなくて、追い抜いてしまったという、その後悔のような言葉。わからなければ「何言ってるのかわかんねーよ」と突き放してしまえばいいのだろうが、そうやって突き放せる言葉と、突き放しがたい言葉とが世の中にはあって、どうも、この曲は簡単に突き放すことが難しい。いろいろと考える。これは人生の重要なことを言っているんじゃないかと思ったり、気まぐれなネコの日々の行動についての話なのかもとか。3年前のMV「野ウサギ」では、もっとわかりやすく言葉が連なっていたし、それを支える曲も特徴を持った自ら存在をアピールするようなリズムで、リスナーにアーチストの意志が全面に訴えてきていた。でも、これはそういう前のめりな意志もなく、リズムもメロディも、ボーカルのテイストも平易で、つかみどころがない。でも、こういうつかみどころがないからこその味わいもあって、だから、僕はこういうのが好き。「鮮明だ不鮮明だ」と歌われている冒頭の歌詞が「1000m、1000m」と聴こえちゃって、聴こえてしまったらもうそうとしか聴こえなくて。でももうそれでもいいじゃないかと思えてしまうほど、この訴えかけてこない表現の、重たく無さ(軽さではない)が、とても心地良い。
(2017.8.28) (レビュアー:大島栄二)