四丁目のアンナ 『sarigiwa-no-girl』【きっとこれが名曲だからなのだと思います】
鍵盤がイイんだよ。こういうトイピアノのような、それは音源がトイピアノ的なのを選択して使っているというだけじゃなくて、いかにも軽く軽く、軽やかなハミングのようなフレーズを奏でているというのが。このトイピアノ的な軽やかさといえば思い出すのが本棚のモヨコ『僕らのメモリーズ』のイントロだが、その曲ではイントロ以外ではそのフレーズをギターが主に担当してて、イントロだけのそのトイピアノ的サウンドだったんだけれども、それでもそれだけ印象に残ったのは、多分ボーカルの軽やかさがトイピアノ的な軽やかさとシンクロして脳髄に印象をめり込ませたのだろうと思われる。一方この四丁目のアンナはボーカル凜佳さんのハスキーである意味ドスの利いた感じにもつながりかねないボーカルで、トイピアノ的なサウンドとはまったくシンクロしていない。それでもそれが印象に残るしイイなと思えるのは、間断なくその音を詰め込んでくれているからなんだろう。でも、でもですよ、そのトイピアノ的なものが前面に押し出されたり、主役の座を狙ったりしていないのも素敵。ピアノロックみたいなジャンルが幅を利かせるようになって久しくて、だから「オレたちはピアノロックバンドだぜ」みたいなポジション取りをしているなと思われるバンドの曲は本当にこれでもかのピアノサウンドで、それは一体なんのための全体のアレンジバランスなんだねと30回くらい問いつめたくなるのだが、この曲、そんなことはまったくなくて、ピアノはむしろバッキングに徹しているような立ち位置で、それでいて存在が霞むようなことはなくて、要するに、バランスがイイんです。カワイイサウンドも、バスドラのドスンドスンとする低音も、ボーカルのハスキーなテイストも、全部混ざってこのちょうど良い楽曲。なんとかロックとかいう肩書きなんかもう要らないよねという、まとまりの良さ。それだからこその、聴いたあとの爽やかさと記憶に留まる存在感なのでしょう。歌メロにほとんど休符がなくて、ずーっと歌わなくちゃいけなくて、その結果、そこで息継ぎしますかと30回問いつめたくなるような場所で息継ぎをしてしまっていても、まあ、息できなくて苦しかったよなあ、頑張ったなと、素直に受け容れることができるというのも、きっとこれが名曲だからなのだと思います。
(2017.8.22) (レビュアー:大島栄二)