ケツメイシ『友よ ~ この先もずっと・・・』
【辛い時は何でも話してよというフレーズが残って進んでいく人生は】
音楽業界に入っていくつか驚いたことがあるが、そのひとつが、ロックバンドが割と普通にアニメの主題歌を担当することだった。え、君の歌は魂の叫びだったんじゃなかったのかそれがアニメか、と。その場合シングルのジャケットがメンバーの写真じゃなくてアニメの絵柄になる。え、それでこれまでのファンは喜ぶのか、魂を売ったのか、等々。しかしその結果新しいファン層を獲得してそのシングルは売上げを伸ばし、ロックバンドはファン層を拡大するのが普通。アーチストがアーチストであり続けるためにはファンは大事だし売上げは大事。売れたことでライブの会場が大きくなってメディアに登場する機会が増えるのなら、既存のファンにも喜びであるだろう。考えれば当たり前のことが、まだシロウトに毛が生えた程度の当時の僕には結構な衝撃だった。
最近息子を自転車に乗せて行き帰りしていると、後ろの席で歌を口ずさんだりする。小さな頃は童謡ばかりだったのに、ここ数ヶ月、聴いたことがない歌を歌っている。どう考えても童謡ではない。「何十年先も君を友だちって思ってる〜」と。なんだこの大人びた歌は。それで、検索してみる。すぐに判る。ケツメイシだ。「劇場版クレヨンしんちゃん」の歌だと。なるほど、クレヨンしんちゃんの歌なら保育園で歌ったりもするのか。こうしてケツメイシのことなど知らない幼児がこの歌を口ずさむ。親がケツメイシを思い出す。そして聴く。メジャー15周年を昨年迎えたケツメイシが、ファン層をさらに拡大しようとしているのだな。いやまあその戦略的な部分はどうでもいいわけだが、繰り返し聴いていると、良い歌だ。MVに出てくるダチョウ倶楽部の若き日の写真が、その頃の自分の姿までも思い起させる。何十年先も友だちって、いいよな。小さな頃に繰り返し口ずさんだ歌は一生記憶の底に残るだろう。「辛い時は何でも話してよ」というフレーズが残って進んでいく人生は、ちょっとだけ良い方向に向かうんじゃないかなと思うし、思いたい。
それにしてもこうしてオリジナルを聴いてみると、息子が歌っている歌とリズムもテンポもまるで違ってて面白い。保育園ではオルガンかなにかで先生が弾いて歌うのだろうから、キックが各拍子で鳴るビートが与えるイメージと同じになるわけはないし、そんなビートで園児に歌えというわけにもいかないんだろうけど。そのオルガン伴奏で数十人の園児たちがこの曲を歌ってるバージョンはどんな感じなのか、一度見てみたい。けれども忍び込んで見るわけにはいかないので、結局息子の不安定でキュートなアカペラを今日も聴くよ。しかしこのレビューを書いた結果、息子のアカペラにもれなく上島竜兵の顔が浮かんでくるようになってしまって、ちょっと困ってる。
(2017.8.5) (レビュアー:大島栄二)