オガワマユ『定点観測』【あと数センチに手を伸ばしてみようとする意志】
軽快なホーンセクションから始まる曲で、軽快で絶対ポップだぞと思うのにどうもポップではない。いや、曲調はポップそのものなんだけれど、ポップと言い切る自信が無い。何故だろう、何故なんだろうと思うけれど、行き着く答えはこのオガワマユという人がきっとポップとは違う人格の人なんだろうというもの。いや、断定するほどの自信もないのですけれど。で、ポップではないミュージシャンの人がポップなサウンドに乗るとどんな風になるんだろうという、なかなか遭遇することの稀な例に出くわしたぞというヘンテコな満足感を感じます。彼女の4年前の「彼女の葬列」というMVがあって、聴いてみると、ああポップの人ではないという見立てはまんざら間違いじゃなかったなという気になってホッとする。淡々と流れていく普通の曲。こういう曲は立ち直れない悲しみを経験した人じゃないと作れないし、普通はそこから立ち直ろうとも考えないんだけれど、この「定点観測」では妙に前向きにポップに向かってみた、みたいな感じで、そのポップに到達まであと数センチともいうべきもどかしさが、個人的なツボでした。その数センチがどうしても届かないんだけれども、手を伸ばしてみようとする意志のようなものが感じられて。何の迷いも無い応援ポップソングなんかより断然心強さを感じられる秀作だと思うのです。
(2017.7.24) (レビュアー：大島栄二)
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