うたたね『うつくしいもの』
【ミニマルな音楽構成から空へと無限に広がるかのような壮大さ】
瑞々しい田んぼの光景から始まる。田園風景は様々な自然を映し、開放的な和室でギターを奏で、歌を歌う姿を映す。どれもが美しい。雨の大地も、雲間からの陽光も。京都で暮らすようになるまで、山の間に雲が霧がかかり、遠くの山が霞んで立体的な重なりを見せるというのを知らなかった。あれは中国の水墨画の中だけの光景だと思っていた。だが、そういうシーンは日本の至る所にある。都会だけで暮らしていたら知らないことだらけだ。スーパーで野菜や肉を買うだけでは、ましてや調理済み総菜やコンビニ弁当だけで暮らしていたら、美しいものをほとんど知らずに一生は終わってしまうのだろう。幸いなことに、今暮らしている場所は適度に自然があり、適度に都会がある。恵まれていると思う。だが、この環境にいたのではまだ知らない美しさもきっとあるのではないだろうかと想像する。人生は短い。美しいものすべてを見聞きするなんてことは叶うはずもない。だが、だからこそ、ふとした瞬間に巡ってくる美しいものは見逃すことのないようにしたい。それには美しいものを感じられる心を養っておかなければいけないのだろうなとあらためて気づかされる。このMV、映像の美しさは言うまでもないだろうが、アコースティックギターのアルペジオの音、ツインボーカルのハーモニー。小野雄大の静から動に移るかのような瞬間に見せる民謡のような声のうねり。ミニマルな音楽構成から空へと無限に広がるかのような壮大さ。音楽そのものの美しさと希少さにも言及しておきたい。言及する必要など無いのかもしれないが、敢えて、言及しておきたい。そこここにあるはずの美しいものに僕はまだまだ気づいていない。だからこそ、うっかりしないためにも、敢えて。
(2017.7.10) (レビュアー:大島栄二)