松崎しげる×布施明『君は薔薇より美しい』【両者の張り合いを聴いていると胸に迫りながら、不思議と感動する】
「いい声」と「声量がある」っていうのは当たり前だが違う。歌手は声の表情や肌理細やかさで何かを訴える。勿論、多様なジャンルや歌う内容によって分かれるものの、今、日本において声量がある歌手といえば、誰なのだろうと思うと、記号としても松崎しげるか布施明の二人が出てくる方が多いのかもしれない。彼らの来歴は詳しくふれずとも周知だろうとして、70歳前後という年齢でも現役で、どうにも年齢を重ねてきた歌手がジャジーに、ときにブルージーに枯れてしまいがちな瀬に、そういう方向性も試しながら、各々の代表曲のひとつ「愛のメモリー」、「君は薔薇より美しい」などでの要所での歌いあげ方には声がもつ快楽性の伸度と、多少のミスト・サウナのような爽やかな暑苦しさを攫う。
ただ、この映像でも例のイントロから軽妙にスキャットをかわす松崎しげる、そこに意地を鬩ぎ合うようで、妙に色気のある布施明の声が被さりながら、どんどん昂揚してゆく。持ち前の黒さと、どこか湿度の高さが特徴的な松崎しげる、と、そことなく万年青年のような風情を帯びたままの布施明の対比を考えてみるのも、たまにはいいのかもしれない。
結論はなんでも急がなくていい。いい声であることと声量の凄さ、という前提条件自体が砂塵に帰すのだと思い知りながら、過剰さと持て余される生命力はときに生物の根底にある哀切を倍加させる。それでも生きなければ、と。それくらい最後の両者の張り合いを聴いていると胸に迫りながら、不思議と感動する。不思議な、理由はないのだが。
(※2019.1.22時点で動画が削除されていることを確認しました。レビュー文面のみ残しておきます)
(2017.7.8) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))