ハンバート ハンバート『がんばれ兄ちゃん』
【2020年までに、消える東京があります。だけど】
軽快な歌。そのMVの冒頭には、歌詞とは直接関係のない「2020年までに、消える東京があります。」という文字が表示される。なるほど、東京五輪までに消えるのか消されるのかわからないけれども、無くなっていくものは多いのだろうなあと、渋谷界隈をチョロっと歩いただけで思わされる。ここに映し出される風景はいわゆる昭和。そのほとんどは前回の東京五輪の頃に都市の成長を体現していた風景だろう。そういうものは、もはや現在の都市には不似合いなのだろうか。雑草の生えた路地なんてものは不必要なのだろうか。この曲には、そんな消えゆく昭和の中にも価値があると主張しているように聴こえる。いや、古いものを残すべきというノスタルジックな何かではなく、それを消そうという行き過ぎた先進に対して「そうではないこともあるんじゃないか」というような、サラリと明るい自己主張のような。新しいとか、強いとか、誰もに対しても解りやすくて、それゆえに抗いにくい価値というものがある。だが、価値はそれだけではないんだよと。走るの遅い、食べるの遅い、力も弱い、そんなダメダメなお兄ちゃんのことを、カッコイイと言う。誰かに押し付けられた見方じゃない視点でお兄ちゃんのことを見ることができるって、スゴいなと思う。聴けば聴くほど深いなあと感心するのだがこの歌、それを重くなどまったく感じさせなくて、ハンバート ハンバートもスゴいなあと改めて思う。
(2017.6.24) (レビュアー:大島栄二)