Tycho『Weather』【壮年になったスコットの意思が今、より反映された滋味を感じる】
表象と、例えば、作者の政治性や思想はまったくの別物だ、という極端な意見があるとして、純度100%の表象とはあり得ないのと同じくして、ナイーヴに重箱の隅をつつくようにようにして、種明かし、パーソナリティーと表現の紐づけを過度にステロタイ ...
YeYe『暮らし』【音楽はささやかにフィットして、疲れた視野をほんの僅か補整してくれるようなもの】
なんともないふりをしあって
心はトゲトゲ
大きく包み合おう
(「暮らし」)
中央側、集権側に牽制するほどに正論が求められる瀬に、個々がいわゆる形骸化したマス・メディ ...
北里彰久『出発』【過度なギミックが無く、凛然とした歌が届く】
小さい声に耳を澄ますと、沈黙に意趣がほだされている気になる。爪弾かれるビート、弦の軋み。空間のさざめき、演者の吐息、オーディエンスや風や不意のアクシデントまでの、刹那さ。昨年に亡くなった大家ジョアン・ジルベルトは破天荒にして奇異な生を ...
中村一義『愛にしたわ。』【先の読めない殺伐としたご時世だからこそ】
ドラッグストアやスーパー、はたまた、コンビニで始業時間を前に並んでいる人たちが居て、目的はマスクや生活用品で、ゲシュタルト崩壊しつつある大衆心理の襞の中にもぐってみて、自分が買ったのは自動型掃除機の電池だけだった。多く選択肢があるほど ...
スピッツ『優しいあの子』【フォーキーで、アイリッシュ調で軽快なスピッツのほんの叙情的な一曲】
2019年になり、日本は元号も変わり、気象状況や世界情勢も慌ただしく日々刻々変わりゆく。かつてまでの常識は時代遅れになり、絶対的な正論の束が異端者を探し出す不気味さを帯びた空気は極まりながら、個々としての自らは犠牲者に加害者にならない ...
Nabowa『PARK ON MARS [AFTERNOON]』【結成15周年を迎えるNabowaのカムバック】
誰かとの対話下で沈黙の間に天使が通るという表現があれば、その気まずさをしてカップなりグラスの破擦音を鳴らすなんてのも今はあるかもしれないが、結成15周年を迎えるNabowaのカムバックのリードは「Park On Mars」で、また、フ ...
GRAPEVINE『すべてのありふれた光』
【優しく誰かの味方であるための音楽が誰もの光でなくていいように】
ありふれていても、余りに社会的に個体内の許容量を超えることがある。だからこその、単節と沈黙は金なのかもしれない。余剰は要らない。本当に、奇遇にもこのアルバムのプロデューサーたるホッピー神山が関わった『退屈の花』と同じレコード店で買った ...
星野源『POP VIRUS』
【彼自身の想いはいつも独りきりで内奧のままに他者へ手を差し伸べている】
年明けの或る病院で「インフルエンザなんてなくなってしまえばいいのに。」と小さい子供が母親に言っていた。ほんの少しだけ文脈が欲しくなる瀬に。ほんの少しばかり、を自在に行き交う星野源の巨大さと器用さは心配になるほどで、ユーモアと、現代に於 ...
Vampire Weekend『120 Minutes of Harmony Hall Guitars』【反復の中に重なる瞑想、枯山水のような風情】
ヴァンパイア・ウィークエンドはデビュー当時から知的でエリートなところを持ちながら、どこか実験者たる風情もあったが、その印象とは別にあっという間に00年代後半10年代前半のUSインディーシーンを代表するバンドになってしまった。ブルックリ ...
Leonardo Marques『The Girl From Bainema』
【花も枯れれば、音楽もずっとは鳴り続かない】
フラワーショップに行くのは楽しい。その時々に並ぶ花の香りと店内のBGMと贈り物を選ぶ人たちの雰囲気が優しくなっているようで、最近ではプリザーヴド・フラワーのような半永久的に枯れない花より、ソープフラワー、つまりは石鹸できた花が目立つ。 ...