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evening cinema『わがまま』
【2017年のセンスでロマンティシズムの機微を】

スピッツの草野正宗は自分たちの曲は基本、人間の摂理たるエロスとタナトスしか歌っていないと過去から徹底して言う。音楽と政治性、または例示するにアドルノや武満徹を巡る楽理、最近ではセラピーやトリートメントの領域まで無音ではなくなってきているが、ラブソングが誰しもに伝達してゆくものではない時代で、むしろラブソングのような日常を模倣されていって、それらをあらゆる手法のアルゴリズムであてがうのならば、いざ、実際のデートは豊潤な選択肢を持っているのだろうか、カフェでの尽きない対話はロマンティックな贅沢に過ぎないのか、となると精緻に違うのではと思えてしまう。老若男女問わず、何度目かのピーク・ポイントに居る岡村靖幸の“いじらしさ“が受け入られるように、誰でも喧しく、共有できたらいい音楽ばかりを求めていない。静かにスティーリー・ダンに、サンダーキャットに酔いたい夜も、そのエレガンスがフィルターとして目の前のあなたのような何かを暈していればいい、そんなところもあり、例えば、ウラジーミル・ペトローヴィチみたいな、なし崩しの愛にしなやかに指先から知性で拭えば、ラブソングは新たに今の現実と止揚される気がする。

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パロディーでもネタ元の詮索やパクリでもなく、2017年のセンスでロマンティシズムの機微を音楽でリプレゼントしてゆくevening cinemaのポップなたたずまいは嬉しい。サチモスのクールネスの膨大な層への受け入れられ方や、Yogee New Waves、never young beach、さらにはLUCKY TAPESなどユーフォリックで軽やかで慕情を含んだポップネスが20代半ばで共振している健康な切実を想うと、まだまだ過剰でマッシヴなものが目立つ瀬でも、テンポを落とした風情をおくりこんでくれるような気がしてわるくない。

evening cinemaの原田氏は大学院で哲学を学ばれているという背景も面白く、思考の体系としてポップスや愛的な何かが足りなさすぎるラブソングについてより深めていきそうで、期待が持てる。会話の中で膨れ上がる恋情から愛に近い何かまで膨張してゆく雰囲気の詩からより分け合える身近なラブソングの意味を想う。

最後に、原田氏のKK BOXでのロマンチックなナイトウォークというプレイリストを見ると一目瞭然、アイデンティティからセンスまでも微笑ましく感じられて、よりこれからの活動が楽しみになる。

(2017.6.5) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))


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Posted by musipl