ROTH BART BARON『けもののなまえ』【音楽は一時的な逃避を僕らに与えてくれるのではないだろうか】
イントロのピアノの音が心地良い。こういう音を出せるバンドがいたんだなあと嬉しくなる。いや、たくさんいるのかもしれないけれど、ただ僕が知らないだけで。そこから続く女性ボーカルの声。そして交代するように歌い始める男性ボーカルの声。どちらも張ることの無い歌い方で、それでいて強く、淡々とした日常の力強さを思い起させる。
ROTH BART BARONは男性2人組のユニットで、海外を拠点に活動しているという。道理でイントロが洋楽っぽい響きだ。海外で活動すれば洋楽っぽくなるということに何の根拠もないのは当然だが、不思議なことにこの鍵盤が洋楽を聴くような気持ちにさせてくれるのも事実だから仕方ない。この女性ボーカルはHANAさんというボーカルの様で、この曲のレコーディング風景なのか、studio sessionの様子も動画として公開されている。このMVではアニメ(?)が使われていて、どんな表情のアーチストなのかもよくわからないが、セッション動画では全員の表情がよくわかる。なので知りたい人はそちらを見てもらえばいいのだが、僕はこのアニメMVの方が曲の世界に没頭できて好き。
先週土曜日にレビューした曲でも、人間の人間たる所以について考えさせられたのだが、この曲も人間って何だろうと考えさせられる。
人間が人間である所以はその社会性であり、社会性を持つということは近くに生きる他者と同一でなくとも許容でき得る近しい価値観を共通させておくことがある程度要求される。しかしその価値観共有が過度に強いられると、今度は人間として希求する自由が踏みにじられていく。その相矛盾した欲求のぶつかり合いが簡単に解決できるのならもっと人は楽に生きられるだろうし、人間はけものから脱することも可能なのかもしれない。しかしそんなことは歴史上一度たりとも実現していないし、それは今後もずっと続いて、僕らを悩ませるのだろう。それでも日々生きていかなければならないし、そんな時に音楽は軽やかに心に寄り添い、一時的な逃避を僕らに与えてくれるのではないだろうか。
(2020.6.22) (レビュアー:大島栄二)