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尾崎リノ『文学のすゝめ』【ミニマルに歌われている内容がすこしだけハッピーな印象でなんか嬉しい】

ミニマルな事柄を表すのが私小説ならば、この人の歌ほど私小説な表現もなかなかない。一昨年の曲『0.02mm』が結構衝撃的で。しんみりくる歌い方もそうだが、歌っている内容の、内面の後悔という限りなく個人的な、他人にはどうでもいい世界なのに、そのどうでもいい個人的な内容を普遍的に説得力を持たせる彼女の歌のリアリティが恐れ入ったのだ。以来時々思い出すように聴くのだけれど、基本的にギター1本の弾き語りというスタイルで、ああ、弾き語りというのは単にメンバーが集まらないから仕方なくやってるというだけの表現スタイルなのではなくて、この私小説的な表現をする時に、音を極力削った状態で歌を載せるのに最適なものなのだなと気づかされる。彼女がどんどん大きくなって、大人気になって東京ドームあたりでライブをやらなきゃいけないようになったところで、じゃあビッグバンドを従えてゴージャスなサウンドにして歌いますかなんてプロデューサーが言ったとしても、それを実行に移した時点で彼女の音楽では無くなるのだろう。と、思う。

その時の曲や、その後の曲に較べてこの『文学のすゝめ』は相変わらずミニマルな世界を歌っているものの、だからギター1本弾き語りというスタイルがピッタリではあるものの、歌われている内容がすこしだけハッピーな印象になっていてなんか嬉しい。人は自分の内面に密かに持っている価値観や世界観があって、それは結局他との些細な違いを認識した上で、結局誰とも同じではないことに少しばかりの絶望を感じて胸の中にそっとしまい込むものなのだが、そういう場合どうしても負の感情であることが多くなる。昔から弾き語りフォークが暗いと言われる所以はそういうところなのだが、この曲のそこはかとないハッピー感がなんかいい。このほのぼのハッピーな2人が語っているのが文学であるというところにハッピー全開とはいかないところが浮き出てていろいろな意味で限界も感じるのだけれど。

(2020.5.21) (レビュアー:大島栄二)


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review, 大島栄二

Posted by musipl