HelloNewWorld『拝啓、最愛の町』【何も無いこの町が最愛の町である理由】
生まれ育った街のことを「何も無いこの町」と表現する。なのに、最愛の町。おかしいだろう、何かあるだろう、愛する何かがあるから最愛の町なんだろう。論理的に考えたらそうなんだろうけれど、現実は論理の通りになどいきゃしない。つまらなくて出ていきたいはずなのに、いざ出ていこうとすると涙が止まらない。それ以前に実際には出ていこうなんて考えてもいない。ただただ愚痴をこぼして悪態をついて。そんな無作法を、何も無い町が黙って受け止めて吸収してくれる。何も持ってない自分が唯一悪態をつける対象が、何も無いこの町なのであり、だから最愛なのかもしれない。
山口県宇部市で結成し活動する彼ら。地方の片田舎からHelloNewWorldという名前を引っさげて登場する。なんかいい。昨年は地元山口のフェスや毎年大阪で開催されるMINAMI WHEELにも出場したとか。この曲の歌詞にもあるとおり2人で結成したバンドにドラマーが正式加入し、今年の飛躍が期待される。とかなんとかこれまでの経歴をあきらかにしたところで何の意味も無くて、ただただ、この曲を聴いて瞬時に感じられる彼らのパッションの熱量こそが重要で、それがある故に今後に期待も出来るのだろう。個人的にはベースボーカルのユウナが上を見上げるかのような視線を投げ掛けながら歌う視線に、強い意志と情熱が迸っていて心地良い。いや、心地良いというのとはちょっと違うな。その視線に、こちら側も目を逸らすことができなくなるような何かを感じてしまったのだ。
(2020.6.2) (レビュアー：大島栄二)
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