Fitness Forever『Canadian Ranger』【ファニーなセンスと軽快なポップスに感覚の歩幅を変えてみるのも或る種の】
或る種のエキゾチズムは、状況次第で書割の部屋に格納されることが多い。小さい竹林と庭園を作った部屋に南国のリゾート・ホテルの昂揚があったり、遠い極寒の地で頑なに中国茶器や茶葉にこだわり続けていたり、風水である程度のその日のリズムを決めることで保たれる多様なる慣習を束ねる平穏さがあったり、また、各々の何かへの好奇心が高まりすぎた結果の上で、原点がどこかに雲隠れしたように掻き回されるプロセスこそが意趣深くうつる。
三作目のオリジナル・アルバム『Tonight』も良作だったイタリアの男女混成バンドFitness Forever。このリード・シングルでは60年代的なソフト・ポップの歴史の中で華やかに躍り、メンバーたちのピチカート・ファイヴへの敬愛も端々にあふれ、ディスコ・ビートが柔和に響く佳曲で、しかし、歌詞とMVではいわゆる、”ヒーローもの”をモティーフにした、ひねくれたベタな要素に満ちていて、どこかB級感のプロセスが潜み、そこがまた興味深い。サーカズムの域ではなく、こういうファニーなセンスと軽快なポップスに感覚の歩幅を変えてみるのも或る種のエキゾチズムなのかと思ったりする。
元来、ボサノヴァやソウル・ミュージック、エレポップなど多彩にかつ軽快に跨ぐさまは見事だったが、より程良さと巧みな構成が見られ、職人技のようにすらなってきた頼もしさを今の彼らには感じる。なにかと風通しが悪くなってくる世にこそ、遊び心を持ったオーセンティックなポップスを。
(2017.11.21) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))