ank『生きることは、音楽』【当たり前のことに気付かなかったり忘れてたりする人が多い今だからこそ】
学生時代にバンドを組んでいても、卒業が近づくと髪を切って就活を始め、やがて音楽を辞める選択をするミュージシャンをよく見かけた。音楽でメシは食えないから辞めるんだと。
新型コロナウィルスのせいでライブハウスが槍玉に挙がって、この非常時に音楽なんてやってる場合じゃないだろという人もいる。一気に自粛ムードになってしまって、多くの人が経済的にも先行きが不透明となり、家に籠る日々の中で苛立って。攻撃的な気持ちになるのもわからないじゃない。誰かを叩いて憂さを晴らしたい。音楽なんてある意味浮世離れしたことをやってる人のことをバッシングする人が増えたとしても不思議じゃない。でもちょっと立ち止まって欲しい。それは、たとえ生物学的医学的に感染していなかったとしても、既にウィルスに侵されてしまっているんじゃないですか、精神が。
ankの『生きることは、音楽』が美しい。売れるために音楽をやるだけが音楽じゃない。音楽で食っていくのは音楽人口のほんの数%でしかなくて、ほとんどの音楽人はプロではない。それでも多くの人は音楽をやっている。それは音楽がその人にとって生きる上で欠かせない、呼吸のようなものだからなのだろう。学生のうちにバンドで売れる算段が見込めなくなって、同じ時間と情熱を音楽活動にかけることが難しくなっても、音楽を辞める必要なんてまったくない。アマチュアとして続けていけばいいだけのこと。バンドを続けることが難しければボカロでもカラオケでも、いや、鼻唄だけでもいい。逆にそのすべてを全部ストップさせてしまうなんてことの方が無理だろう。だって、音楽人にとって音楽とは呼吸のようなものなのだから。
同じように、自粛自粛で家に籠ったって、音楽を辞める必要なんてまったく無いんだ。僕がこんなところで主張する以前に、すでにみんな始めてる。レディガガが主催したという音楽イベントもそうだったし、ローリングストーンズも各自の家からセッションを披露した。その仕組みに莫大な予算なんて必要ない。無名の人たちもどんどん家からセッションを始めてる。各自の自宅でギターを抱えてSNSに投稿してる。ライブハウスに行かなくても出来る分、最近はあまり表立った活動をしていない人たちまで自宅セッションしてるみたいだ。いいぞいいぞ。みんな自粛に負けてない。そうやってバーチャルセッションで音楽に親しんだ人たちが、表現した人もそれを見て聴いて楽しんだ人も、この新型コロナウィルスが終息した時には再びライブハウスやコンサートホールで集まれればいいんだ。
ankの歌のすごいところは、「生きる(食う)ために音楽をやる」じゃなく、「音楽のために生きる」でもなく、「生きることは音楽だから」と断定してるところ。そう、そうなんだ。生きることと音楽はどちらがどう、じゃなくて一体のものなんだ。そんな当たり前のことに気付かなかったり忘れてたりするから、「音楽で食っていく」とか「音楽では食えないから音楽辞める」とか「非常事態なんだから音楽なんてやめとけ」とか言ったり考えたりしちゃう。そんなアホな世迷い言に対して「生きることは、音楽」と明快に言ってくれてるこの曲こそ、今みたいな時代にめっちゃ必要な曲なんだと思うよ。もう絶対に。
(2020.4.23) (レビュアー:大島栄二)