もるつオーケストラ『ムーンライト』【こういう曲をこそみんな聴くべきだし、紹介すべきだなあと心から思うのですよ】
この人たちは音楽を知っているよな。音楽を知ってるといっても学術的に知識が豊富とかではなくて、音楽の力と、その力が最大限に引き出されるための方法といったような、そんなこと。ポップミュージックはだいたいにおいてAメロ→Bメロ→サビみたいな構成になっていて、それは基本中の基本なので作る人はほぼ100%そういう構成を踏まえて作る。そのメロディが変わる「→」のタイミングで、メロディが変わる以上注意しないと違和感が生まれるしヘタだとダメ曲になってしまう。かといって違和感を恐れてメロディ変化を少なくしてしまうと、今度は曲が平坦になってしまい盛り上がりに欠ける。メロディ変化をきちんと生み出しつつ変化タイミングでの違和感を最小にするというのは意外と難しいことで、難しいからほとんどの曲ではパーツを接着剤でくっつけたようなシロモノになってしまうのであって、だから、その難しいことを成し遂げた曲は名曲となる。この『ムーンライト』という曲はそれを見事に達成している名曲だ。
この曲だけを聴くともるつオーケストラは感動バラードバンドなのだと思ってしまうかもしれないが、「四国がどこにあるんだ?」ということを解説した曲や「サンドイッチはちょっと高いよね」と言ってるだけの曲で話題となった、「平成最後の実力派コミックバンド」である。ボーカルのルックスはユニークで、「きみは何でそんなに髭モジャなんだ?ヘアスタイルはウケ狙いか?」とついつい突っ込みたくなる。コミックバンドなのだからそう突っ込まれることを前提としたヘアスタイルなのかもしれない。日本ではヒットチャートを賑わすのはイケメングループや美少女グループばかりで、特別イケメンでもない彼(彼ら)が目立つヘアスタイルでルックスを固めてコミックソングを歌うことで少しでも注目を浴びようとしたのは想像に難くない。だがそういったコミックソングもよく聴けばネタ的な要素の陰に潜んでいる音楽的秀逸さに溢れている。その彼らが何を血迷ったのかマジなバラードを披露するとコレだ。もうやられたという感じ。公開してからの期間の違いはあるものの、コミックソングの再生回数は70000回を超えているのに対しこの名曲バラードは1500回程度。こういう曲をこそ、みんな聴くべきだし、紹介すべきだなあと心から思う。思うのですよ。どうかみなさん聴いてください。
(2018.4.3) (レビュアー:大島栄二)