アナトオル・フランス『もうだめだ/OK』
【ああ、そこで世界は転換しているのだな】
ダメ人間には2種類あって。ひとつはその人なりに頑張ったつもりで社会的には成功したつもりで、それなのに哲学とか正義とかそういうものが最初から欠落しているために自分の悦楽のみを追求してしまうので周囲に害悪を撒き散らす人。もうひとつはいろいろと考えて考えて読んだり学んだりした結果、すべてのことが虚しくなって生産的活動を停止した人。いや待てよそれじゃないダメ人間もいるだろうと思ったあなたは鋭い。学びもせずに真性の怠惰の故に生産的活動をしない人。そういう人も確かにいる。でもそれは人間なのだろうかという疑問もあって、ダメ人間以下の生命体と呼んでもいいのではないだろうか。ただ、外形的には後者のダメ人間とダメ人間以下の生命体にはたいした違いはなくて、だからややこしいし誤解される。
アナトオル・フランスのこの曲(2曲だけど)を眺めていると、ああ、これは誤解されるなと素直に危惧する。ごはん食べて横になってまた寝ちゃったのである。いつもそう続かないやめちゃったのである。ああ、ダメ人間だな。そう思われる。「あぁもうだめだ」と自らダメ人間宣言しているのである。でもそんな真性ぐうたらの生命体が歌など作る訳ないじゃないか。作れる訳がないじゃないか。彼らの曲はやたらとYouTubeにアップされていて、そのどれもがダメ人間ソング。だが聴けば聴くほどシニカルで世相を表している。この「もうだめだ/OK」の連作で、ダメ人間の生活の直後にOKと歌う。本当にそうだよなと思う。もう飲まず食わないでOKと、お手洗わないでOKと。花畑花畑。んんん? それってあの世のことなのか?最後の歌詞が「川」それは最期に渡るあの川のことか? こうなってくると恐怖さえ覚える。もうだめだと砂浜で寝転がっている直後に画面はやや明るくなって、彼らは立っている。ああ、そこで世界は転換しているのだな。そんなことは説明されてないけど。説明なんて野暮なことはしないんだけれど。ダメ人間の果てにそういう転換があるよということなのか。かといって思考の結果の非生産性から生産的活動に転換するのもある種の地獄だしなあと。いろいろ考えるけれども、その答えなどきっとなくて、いろいろな人がそれぞれの思考をすればいいのではないかなあとかいう堂々巡りに陥るのも楽しいと思います。
(2018.4.6) (レビュアー:大島栄二)