岡まこと『カーテンヲクビニマイテ』【こういうガツンとした表現の方が役に立つ場面は多いのではないか】
息苦しい、いや生き苦しい社会だとよく言われる。本当だろうか。それは本当のことだろうか。自分自身は今現時点で死にたいなどとは思わないし、まったく思わないし、だからそういう人の気持ちを、寄り添うことはできても完全に理解することはできない。不可能だ。だが自分の理解が及ぶことだけが世界なのではなくて、理解できないことは現実に起こっているし行なわれている。岡まことという人の歌はネガティブなエネルギーに満ちていて、これでもかこれでもかと負の光景を描写する。表現者としてありきたりなことを表現していても誰にもひっかからないのだし、特定のオーラを表現してその端々を鋭角に尖らせるというのは表現者としての王道なのであって、そういう意味ではこれは彼の個性であり戦略なのだろうと思う。そのこと自体を揶揄するつもりはまったくない。むしろ多くの個性がぼやけた自称アーチストの人たちには見習ってほしいと思うくらいだ。ただ、いくら戦略を考えたところでまったく理解できない世界のことを作品として生み出すことができるのかというと、きっとそんなことはない。自分に見えたもの聞こえたもの考えたこと、そういったことから作品というのが生まれるのだとすれば、岡まことという人にはこういったネガティブな何かが感じられたし感じられているのだろうと思う。そういう何かが彼だけの特殊な何かに過ぎないのであれば、誰も共感することなく無視されて消えていくはずだし、現代の日本において多くの人たちも感じている何かなのであれば、多くの人たちが共感し、支持を集めていくはずだ。それにしても言葉のひとつひとつがあからさまで、目を覆いたくなるような耳を塞ぎたくなるようなものなので、リアルに共感する人ほど遠ざけようとしてしまう種類の表現なのかもしれないけれど。
完全に理解できないにしてもそういう感情が生まれる状態が広がっているということは実感できる僕としては、そういう状態の広がりにさえ気づかない人に対してもっと意識を持ってもらいたいと思っているし、そのためにはやんわりとしたオブラートに包まれたような表現よりも、こういうガツンとした直接的な表現の方が、役に立つ場面というものは今後より多くなってくるのではないかという気がする。
(2018.5.3) (レビュアー:大島栄二)