石崎ひゅーい『パレード』【ポジティブなことを考えることも、ネガティブなことに囚われ落ち込んでしまうこともある】
危機が迫った時、正直に怯える人と「今がチャンス」と血をたぎらせる人がいる。日常がある程度固まった世界で、その日常が続く限り不満多き現状から抜け出せないのだとすれば、変革や動乱こそ抜け出すための稀なチャンス。それを逃せばまた不満多き日常に戻るだけ、いや場合によってはさらに困難を抱えることになってしまいかねない。
多くの国が鎖国政策のような状態に陥り、自らの国の命令で自らの事業も頓挫させられようとしている中、ほとんどの人が明日への不安と現状の不満を爆発させようとしている中、一部の投資家だけはいずれくるであろう終息の日と、その後訪れるはずの景気回復のタイミングに備えているように見える。なぜなら、それこそが彼らの投資事業にとって大躍進するチャンスと捉えているからだ。あっぱれだ。古今東西変革の時に躍進し確固とした立場を獲得した者が、その後100年の支配権を得る。まあそこまでの話じゃないにしても、小さな商機を狙って成功する輩は少なくない。
そんな彼らにしても危機の波に飲み込まれるリスクはある。投資家がここぞと狙って投資したのがまったくのバッドタイミングであるのはよくある話だし、今でいえば、誰もが感染と重症化による死のリスクを100%回避することは不可能だ。それでも、いつかは死ぬのだと覚悟して、次の成功にだけ意識を絞って日々を過ごしていた方が、不安に苛まれているよりはナンボかましなのではないかと思う。もちろん細心の注意を払って感染の確率を減らす努力が必要なのはいうまでもないことだが、その上で、不安に沈むよりは期待に胸ふくらませている方がいいに決まっているのだし。
石崎ひゅーいの最新MV『パレード』はなんとなく、なんとなくだけれどもそんな前を向く底力のようなものに溢れている。この曲が収録されているシングルのカップリングでもある『世界の終わりのラブソング』という曲があって、どちらも突き詰めていけばラブソングではあるものの、テイストや色合いやベクトルがまるで違うように響く。シンプルなメロディが延々と繰り返されていく『世界の終わりのラブソング』に較べ、ポップミュージックとしての構成が明確に有ってサビでシングアウトするような『パレード』のなんとポジティブなことか。2曲とも幸せを見ようと努力する歌なのに、『世界の〜』が後ろを向くことでかろうじて幸せを見ようとするのに対し『パレード』ではまだ見ぬ未来にこそ幸せが有ると信じ、その未来を待つことさえもどかしいから今この時を幸せにしようと宣言する。これが同じ表現者の、ほとんど同じ時に公表される曲なのかと驚いてしまう。
だがそれは、僕ら普通の生活者だって、ある瞬間はポジティブなことを考えて明るい気持ちになることもあるし、次の瞬間にはネガティブなことに囚われて暗く落ち込んでしまうこともあるという、そのことを端的に示しているように感じられるのだ。
僕は明るく暮らそうと思う。嫌なこと辛いことはあるけれど、そんな時こそこういうポジティブな曲を思い出し、やがて来るであろう明るい時のことを考えたりしながら。
(2020.4.6) (レビュアー:大島栄二)